米3大航空会社の1つ、デルタ航空が約60秒のアニメーション動画を使ったWebキャンペーンを、日本の利用客向けに5月16日から6月4日まで展開した。同社は2016年、日本と米国を結ぶ路線のエコノミークラスの顧客に向けたサービスを、細かく改善した。アニメ動画はその内容を分かりやすくまとめたもの。日米路線を利用する顧客にアニメ動画の閲覧を通じて、地道なサービス改善を広く知らしめ、ブランディングと客数拡大につなげることが狙いだ。

 デルタ航空は、2008年に米ノースウエスト航空と経営統合して日米路線の便数を増やしたものの、日本での知名度は、競合する米アメリカン航空や米ユナイテッド航空に比べ、高くない。同社の調査では、すべての長距離国際線で通路側の全席にフルフラットベッドシートをいち早く導入したためか、日本でもビジネスクラスの評価は高い一方、エコノミークラスの満足度は比較的低いという結果が出た。

 そこで昨年、日米路線のエコノミークラスに狙いを絞り、サービス改善に努めた。7月には機内で「ハーゲンダッツ」など有名ブランドのアイスクリームの提供を開始。10月には機内用スリッパの提供を始め、機内Wi-Fiを完備した。さらに11月にはブランケットの品質を上げ、エンターテインメントシステムで提供する日本語コンテンツの数も増やした。こうしたサービス改善が一段落したタイミングでその実績を多くの消費者に知ってもらおうとキャンペーンを実施した。

デルタ航空がキャンペーンに使用した2次元アニメ動画
デルタ航空がキャンペーンに使用した2次元アニメ動画

 キャンペーン参加者は、特設サイトで60秒のアニメ動画を完全視聴した後、「家族のこと」「旅行のこと」といった4つのカテゴリーから1つを選んで、小さなことが大きな喜びをもたらしてくれたような心に残るエピソードをサイトから投稿する。「デルタ航空に興味を持ってくれた参加者と双方向のコミュニケーションを取ることで、デルタ航空への親近感を増したい」(デルタ航空太平洋地区マーケティングコミュニケーション部門マネージャーのカレン・タンティオングロック氏)と考えたのだ。心に残るエピソードを投稿した参加者のうち優秀者には、同社の日米路線エコノミークラスのペア往復航空券(1人)や、300ドル相当のトラベルバウチャー(4人)などを贈呈する。

あえてアニメ動画を選択

 今回のキャンペーンの特徴は主に2つ。1つは、実写やCG(コンピューターグラフィックス)、流行している360度パノラマ動画やVR(仮想現実)ではなく、抽象的な絵柄を使った2次元アニメ動画を採用したこと。もう1つは、ネット広告を使わず、ソーシャルメディアの公式アカウントからの情報とコンテンツの魅力で、キャンペーンサイトへの誘導を図ったことだ。

 リアルな絵柄ではなく人間をデフォルメして表現した動画を採用した理由を、タンティオングロック氏はこう語る。「遊び心が感じられ、かつサービスの改善ポイントが伝わる動画を制作しようと考えた。低コストで予定通りに制作できることも重視した。日本人は漫画やアニメを好む傾向があるので、あえて2次元アニメを選択した」。360度パノラマ動画でさえ、珍しくなくなっている昨今、古典的と言ってもよい2次元アニメは、かえって新鮮に見えるのかもしれない。

 もう1つ、ネット広告を使わなかったのは、コストをかけなくても、ソーシャルメディアやオウンドメディアでキャンペーンの内容を告知すれば、一定数の訪問者を確保できると踏んだためだ。

 実際に、その反応は事前の予想を上回り、「満足できるものになった」(タンティオングロック氏)という。KPI(重要業績評価指標)に設定した動画閲覧数は、キャンペーンサイトとYouTube公式チャンネルを合算すると約29万回到達した。

 エピソードを投稿した参加者も「1000人を超えた」(タンティオングロック氏)という。デルタ航空では今後も、自社のブランディングと利用客増を目指して、動画を使ったWebキャンペーンを検討していく。

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