洋服を機器に入れて、その日の気分に合わせて専用の洗剤を使う。洗浄をするとともに紫外線カットといった効果や好みの香りなどをつけて、自分仕様に仕上げられる。専用の洗剤は、スマートフォン向けのアプリから好きなものを選んでいつでも通販で入手可能──。

 パナソニックは、このような機器とアプリを連携した新しいサービス「MonStyle(モンスティル)」の実現に向けて、検討を本格化させた。事業化は洗濯機を扱う事業部の下で進めている。このMonStyle、実は元となったアイデアは事業部発ではない。洗濯機を扱う事業部とは異なる部門所属の社員が発案した。このアイデアに可能性を感じた事業部長が、技術検証などを請け負うと決めたのだ。

 開発を進める新製品のアイデアを他部門の社員から募ったこともユニークだが、同製品の仕様を決める際、開発段階で顧客の声を取り入れている点も珍しい。実はパナソニックは、同製品に洗濯機能を搭載するか決めかねていた。この洗濯機能の搭載を後押ししたのは、一般の消費者だ。

米国のイベント「SXSW2017」においてMonStyleを含む8つの新事業の製品サンプルや構想を披露したパナソニック
米国のイベント「SXSW2017」においてMonStyleを含む8つの新事業の製品サンプルや構想を披露したパナソニック

 開発段階での意見の収集はイベント展示会場で行った。パナソニックは、今年3月に米国のオースティンで開催されたテクノロジーと音楽のイベント「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)2017」において、MonStyleを含む8つの新事業の製品サンプルや構想を披露した。そして、イベントの来場者が実際に試作品に触れる中で、寄せられた生の意見を参考にした。

 このように、既存のビジネスモデルにとらわれない新しい事業の芽を、事業部門や役職を超えて全社から幅広く募る。さらに、開発段階で一般の消費者に披露することで、意見を募り、よりスピーディーに完成度を高めていく。こんな新しいモノ作りを推進するために、昨年発足させた社内横断型プロジェクトが、「Game Changer Catapult(GCC)」である。MonStyleはこのプロジェクト発の新事業案の1つだ。

キッチン製品を扱う事業部でも製品開発が進む

 MonStyle以外にも、SXSWに展示されたさまざまな事業のアイデアが、事業化に向けて動き始めている。例えば、「DeliSofter(デリソフター)」は家庭で作られた料理を、見た目はそのままに食べやすいように柔らかくする新しい調理機器だ。高齢者は身体機能が低下して、噛む力が弱くなる。十分に噛み砕けないと、喉に食べ物が詰まるなどの危険性も高まる。こうした課題を解決することを目指した製品だ。同製品はキッチン製品を扱う事業部の下で製品化を目指している。

 パナソニックアライアンス社事業開発センターGame Changer Catapultの深田昌則代表は、「社内でも、現場社員がアイデアを出しやすい風土作りをする。事業化に向けてビジネスモデルを磨きあげるため、外部の意見も取り入れる。従来のパナソニックは、各事業の成長率が低かった。新事業で高い成長率を実現するには、自前主義にこだわらず、オープンイノベーションを取り入れて、既存事業の固定観念から抜け出す必要がある」とGCC発足の背景を話す。

 発足時は社内横断型のプロジェクトのような存在だったGCC自体も、今年4月からは事業開発センターの傘下となった。SXSWで展示したネットに接続された壁掛け型のディスプレー製品「AMP」についてはGCCの下で事業化を目指すなど、パナソニックの次世代モノ作りを推進する組織へと発展した格好だ。

 GCCでは今年も、5月末を締め切りに新たなアイデアを募った。6月には寄せられたアイデアの中から役員が有望な案を選定した。こうして選ばれた新事業は、2018年のSXSWで披露する方針。パナソニックでも、オープンイノベーションが製品開発手法の1つとして定着しそうだ。

この記事をいいね!する