
本誌が6月号で報じた、トヨタ自動車が自社開発中のプライベートDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の詳細が明らかになった(関連記事)。
DMPにWebサイトのアクセスデータなど、社内外の膨大なデータを集約。データを分析することで自社サイトでのレコメンデーションの精緻化や、複数のDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)と連携させてディスプレイ広告の効果測定、出稿の最適化などに活用していく。
こうした点は一般的なDMPと同様だが、このDMPにはユニークな特徴があるという。それはWebサイトに表示するコンテンツの出し分けや、パーソナライズしたメールやスマートフォンアプリへのプッシュ通知などを、事前に設定したシナリオに基づいて自動的に実行できる「マーケティングオートメーション」(MA)機能も持たせることだ。
MA機能を併せ持つことで、DMPに取り込み、分析したデータを生かす施策の幅が広がると見ている。トヨタの持つさまざまなネットサービスとも連携させる予定で、ネット上だけでなく、販売店やクルマそのものもタッチポイントとして活用する。例えば、トヨタのテレマティクスサービス「T-Connect」経由で、クルマで移動、旅行をしている際などに消費者が見る車内のカーナビや、持ち歩いているスマートフォンに、位置情報などをフックに情報を送るといったシナリオも可能になる。
セキュリティーの観点から、基本的にはオンプレミスのシステムとなるが、クラウドシステムとしても使用できる設計になっていることも特徴の1つだ。当面は国内の営業、マーケティング関連スタッフが主要ユーザーとなるが、グローバル拠点での活用もにらんでいるためだ。また、現在開発しているのは「全社DMP」だが、その稼働後には、各部門のニーズに合わせた「部門DMP」というべきシステムも作り、相互連携する構造とすることを想定している。このように、一般的なDMPとは異なる特徴を持つことから、トヨタはこのDMPを「デジタル・マーケティング・プラットフォーム」と呼んでいる。
ID統合や組織連携など環境整備も加速
DMPは2016年3月をめどに稼働させる予定で、トヨタグループのWebマーケティングサービス提供会社であるトヨタメディアサービス(名古屋市中区)と協力して開発を進めている。このDMPが稼働すれば、トヨタがここ数年取り組んできたデジタルマーケティングのためのシステム整備は大きな節目を迎える。
トヨタは2014年4月に企業サイト「toyota.co.jp」などの主要サイトをレスポンシブWebデザインを採用してスマートフォンに全面対応した。2015年初めには新たに導入したCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)で、大半のコンテンツを一元的に制作・管理できる体制も整えた。社内に複数あるメールサービスや会員制のWebサイトでのID統合も、一連のシステム開発に先立って実現している。昨今は、ブームに乗ってDMPを導入したものの十分に活用できない事例も一部に出てきているが、周到にシステム整備を先行実施し、そうした事態を避ける準備を進めてきた。
「このDMPによって、お客様目線で、本当に欲しい情報を、欲しいと感じるタイミングで提供することを目指していく」。DMP開発を主導するe-TOYOTA部インターネット企画室長である佐々木英彦氏はそう強調する。既にe-TOYOTA部と、国内の営業・マーケティングを統括する本社の国内業務部との間でDMPの活用戦略などを協議する定例会議をスタートさせたといい、マーケティングのデジタル化を加速するための人的、組織的な基盤づくりにも取り組んでいる。