世界第2の人口をかかえるインド。市場の大きさに加え、内需型成長の手堅さを見せ、域内でもその成長の潜在性が注目を集める。その一方で、インドは非常に広大な国であり、市場が分散しているため、生活者へどうリーチするかは重要なマーケティング課題である。

インドの7都市で、ウェブとアプリを介してサービス・プロバイダーと生活者をつないでいるアーバンクラップ
インドの7都市で、ウェブとアプリを介してサービス・プロバイダーと生活者をつないでいるアーバンクラップ

 インドではここ数年、ハイパーローカル、つまり生活者の地元の生活圏内にある無数の零細ビジネスに着目し、それらのオンライン・アグリゲーション・プラットフォームを提供することで、零細ビジネスと生活者をO2O(オンラインtoオフライン)で直接つなげようとする動きが著しい。この地元の生活圏=ハイパーローカルには、生活者の近所の全てのビジネス、つまり近所の商店、レストラン、その他の生活サービスなどが含まれる。インドの小売業の実に9割が、こういった零細ビジネスであることから、ハイパーローカルのレベルでのマーケティングがどれほど大きなインパクトを持ち得るものかは、想像に難くないだろう。

地元の生活サービス企業と生活者をマッチングする「アーバンクラップ」

 インドのリサーチ会社であるケンリサーチによると、ハイパーローカルのセグメントには、ロジスティクス、食品、食料・日用雑貨、医薬品、生活サービスなどがある。そのうち最も大きいのは生活サービスのセグメントである。人気を集める生活サービスプラットフォームに、2014年に創業したアーバンクラップがある。現在、7都市で、ウェブとアプリを介してサービス・プロバイダーと生活者をつないでいる。登録しているサービス・プロバイダーは5万人以上で、サービス利用者(累計数とみられる)は100万人を超える。

 現在、提供可能なサービスは、ヨガやフィットネスのトレーナーなどの健康関連、配管・電気工事や家電修理などの家まわり、ウェディングプランナーや写真撮影、ケータリングなどのイベントまわり、インテリアや掃除などの家のメンテナンスまわり、家庭教師、ダンスや音楽などのレッスン、税務申告や会社登記にデジタルマーケティングなどのビジネス・サービスと、多岐にわたる。サービス開始から急速に拡大し、2015年から1年の間に、1日当たり数百件だったリクエストは、数千件に伸びたという。

 アーバンクラップを通してサービスを利用するには、ウェブもしくはアプリから、まず利用したいサービス・カテゴリーを選択する。自分の住む地域で人気のサービスも同時に表示されるので参考にできる。続いて、利用したいサービスの詳細(例えばヨガを習いたい場合なら減量のためなのかリラックスのためなのかなど)、予算、日時など、いくつかの質問に答えていく。アーバンクラップのマッチメイキング・エンジンは、それらの質問の答えと、利用者の位置情報から、マッチするサービス・プロバイダーを自動的にリストアップする。サービス提供者側は、リードを確認し、見積もりを提供する。サービス利用後は、利用者は利用したサービスのレーティングをすることも可能だ。

 アーバンクラップのマッチメイキング・エンジンにより、生活者は、業者リストを単に上から順に調べていくといった手間をかけずに、自分のニーズに合ったサービス・プロバイダーを特定できるようになる。また、これまでは不透明な価格設定に対して仲介業者と交渉しなければならなかったが、このアグリゲーション・プラットフォームにより複数のサービス提供者と一度に直接やりとりすることが可能になり、価格比較も容易に出来るようになった。

 一方、サービス・プロバイダーは、マーケティングやプロモーションをアーバンクラップに任せ、サービス提供に集中できることに加え、関連性の高いリードのみを得ることで、高いコンバージョン率を享受できる。このマッチメイキング・アルゴリズムがアーバンクラップの特徴である。

 ハイパーローカルの生活サービスプラットフォームには、最近、フェイスブックも新たに参入してきた。フェイスブックのサービスはまだテスト段階であり、どのようにマネタイズするのか不透明ではあるが、200万以上の中小企業がフェイスブックのプラットフォームを利用しており、その数で他のハイパーローカル・プラットフォーマーを圧倒する。生活サービスのプラットフォームは今後競争が激化すると見られている。特に、出張美容サービス、健康、ウェルネス(ヨガ、フィットネス、栄養士、フィジオセラピストなど)の分野は、粗利率も高く、生活サービス企業にとっても、ハイパーローカル・プラットフォームというデジタルマーケティングコストをかけても、地元生活者にさらにリーチしやすくなるメリットは十分にある。

地元の小売店と生活者をO2Oで結ぶグロファーズと「Amazon Now」

 それでは、食料雑貨や生活消費財といった小売業のハイパーローカル・プラットフォームについてはどうだろうか。実は、2015年から2016年にかけて、厳しいアップダウンにさらされており、その真価が問われている。同プラットフォームのツートップはグロファーズとペッパータップであり、2015年にいずれも多大な金額をファンドから集めた。

注文から2時間以内に近くの店舗から商品を届ける「Amazon Now」
注文から2時間以内に近くの店舗から商品を届ける「Amazon Now」

 しかし、ペッパータップは今年に入ってハイパーローカル事業が破綻し、2015年にソフトバンクからも出資を受けたグロファーズも、今年に入って9都市から撤退した(現在17都市で展開中)。その一方で、アマゾンは地元のいわゆるパパママショップである「キラナ」(Kirana)にちなんだプラットフォーム「Kirana Now」をバンガロールでローンチして、新たにこの事業に力を入れ始めた。最近「Amazon Now」に改名したこのサービスは、注文から2時間以内に近くの店舗から商品を届けるというもので、現在はバンガロールでアプリからのみ利用可能であるが、今後はインド国内各地にも広げていく計画である。

 一体、小売業ではどういう要因でハイパーローカル・プラットフォームが難しく、または機能し得るのだろうか。実はインドの小売業は、元々ハイパーローカルで商売をしていた。インドの人々の多くは、近所のなじみの商店での買い物を好む。大手のスーパーマーケットやモールといったモダントレードは大都市圏には確かにあるが、生活者の行動パターンとして地元の商店を使うことが多い。このような中、地元のなじみの商店をオンラインで生活者へとつなぐハイパーローカル・プラットフォームは、地元の生活圏内の商店から即座に物を届けるというその即時性と安心感の点で、人気を集めた。

 グロファーズなどは、アプリのダウンロード数が300万に達している。地元の零細店にとっても、こういったプラットフォームに乗っかって生活者にいつでもリーチできるというメリットは確かにある。

 しかしながら、地元の商店の在庫情報を最新のものに保ち、また、コミットした時間内に商品を届ける(グロファーズの場合は90分以内)ということは、ハイパーローカル・プラットフォーマーが面した大きな課題であった。特に、グロファーズは野菜や果物などの生鮮食料品も取り扱うため、商品を新鮮なままで迅速に届けるという課題が更に加わる。ここが、先述の生活サービスのハイパーローカル・プラットフォームとの大きな違いである。

 さらに、生鮮食料品は単価が安くマージン率が低い。加えて、利用者囲い込みのため、割引キャンペーンなど価格競争も激しかった。小売業は市場自体の潜在性はあるが、サービス・セグメントとはまた違ったマーケティング課題が重くのしかかったのである。

 インドは世界第2の規模に迫るスマートフォン市場を持つ一方、国内でのスマートフォン浸透率はまだまだである。スマートフォンとの親和性も含め、ハイパーローカルのO2Oプラットフォームは、ビジネスとしても、デジタルマーケティングの手段としても、大きな成長余力を持っている。しかし、具体的にどういった分野ならこのアプローチが成功するのか。その絞り込みの段階に、今まさに差し掛かっている。

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