三井住友カード(東京都港区)は、3カ年の中期経営計画が始まる2017年5月に統合マーケティング部を新設した。自社Webサイトやメールを通じて顧客とコミュニケーションを図ってきたネットビジネス事業部と、顧客関連データの収集や分析を担当してきたマーケティング部、それにコールセンターの運営部署の企画機能を1つに統合した組織だ。

 三井住友カードは5年前からデジタルマーケティングの改革に取り組み、一定の成果を上げてきた。今後は統合マーケティング部を旗振り役に、「中経に記載した『顧客に寄り添う』形のデジタルマーケティング、つまり自社にとってのLTV(顧客生涯価値)より、顧客にとってのLTVを重視した施策を推進していく」(佐々木丈也・統合マーケティング部長)という。

企業の理屈を重視していた

 同社のデジタルマーケティングは、改革を始めた5年前までは、顧客に寄り添っているとは言い難かった。各部署からの、「この内容を届けてほしい」といった要請に応じて、Webサイトにコンテンツを大量に詰め込み、顧客に多数のメールを送り付けていた。その結果、Webサイトはコンテンツのデザインや配置に一貫性がなく使いにくく、メールへの不満も高く、顧客や外部の評価機関からの評価は下がる一方だった。

三井住友カードのWebサイト
三井住友カードのWebサイト

 そこで5年前に、データに基づいて顧客の利益を志向するマーケティングへと舵を大きく切った。アクセス解析ツールを導入し、いつ、誰が、どの程度、Webサイトにアクセスしているかを分析。ターゲティングツールを使ってカテゴリーごとに顧客を分類し、コンテンツを出し分けることに取り組んだ。

 そうした改革の象徴が、自社Webサイトの全面リニューアルだ。2013年8月から始まったリニューアルは、2年をかけて2015年11月に一応の完成をみた。具体的にはレスポンシブルWebデザインの採用やスマートフォン対応の強化などのほか、文字フォントを拡大したり、コンテンツの配置を見直したりするなどデザイン面を大きく変更。「サイト訪問者にメッセージが伝わりやすくした」(佐々木氏)。

 サイトのトップにある大型バナーは、例えば「Vpass」という会員組織へのログイン経験がないサイト訪問者の場合は、Vpassへの登録を勧めるバナーを表示。ログイン経験はあるがWeb明細の登録をしていない訪問者にはWeb明細への切り替えを勧めるバナーを表示するなど、ユーザーの利用履歴によってコンテンツを出し分けるようにした。

 この結果、リニューアル前と比べて、月平均の新規会員登録数が3ポイント、Vpassへの会員登録や新サービスの申し込みなどの平均成約率(CVR)が20ポイント、それぞれアップ。KPI(重要業績評価指標)に設定していたNPS(ネット・プロモーター・スコア)も、リニューアル前の2015年の-4.8が、リニューアル後の2016年は2.7へと、7.5ポイント向上した。

 だがWebサイトには依然として顧客志向に徹しきれていないところがあった。例えば、支払額の一部を自動的にリボ払いにするサービスについて検索しても、適切な回答が表示されないケースがあった。同社がリボ払いの説明を、「マイ・ペイすリボ」という商品名を使って説明していたり、回答となる説明ページを検索するロジックが適切でなかったりしたためだ。商品名を浸透させたいという思いが、顧客の利便性を妨げていた格好だ。

 また、コールセンターへの問い合わせをテキスト化して分析し、ユーザーが知りたい上位1000の項目を抽出したところ、Webサイト上のコンテンツで回答できたのは、リニューアル後でも25%に過ぎなかった。「顧客志向をうたうからには、この『コンテンツカバー率』が低いことは大きな課題」(佐々木氏)。そこでコンテンツカバー率を新たにKPIと定め、その引き上げを進めた。

外部の2社と協業

 その取り組みを昨年4月、Webマーケティング支援のメンバーズとUNCOVER TRUTH(東京都渋谷区)の2社と組んで始めた。データ分析と改善施策の提案はUNCOVER TRUTH 、実際のWebサイトの制作や運用、ABテストの実施などはメンバーズが担当。アクセス解析ツールに加えてUNCOVER TRUTHのヒートマップ分析ツールを導入し、訪問者の行動を分析しては改善するというABテストを繰り返した。

 例えば、対象を18~25歳に限定したカード会員を勧誘するページでは、三井住友カードが自社の強みと考えていた「安心・信頼」の説明をページ上部に大きく掲げていた。しかし、ヒートマップ分析ツールで訪問者の行動を分析したところ、「安心・信頼」の説明には興味を示さないことが判明した。それよりもページ下部に置いた「カードが発行されるまでの期間」に関心を持つ人が多かった。そこで「カード発行までの期間」の情報をページ上部に配置したり、文字の大きさや色などを変えたりしたところ、「プロジェクトを始める前と比べてCVRが20%向上した」(佐々木氏)という。

ヒートマップ分析でサイト来訪者の関心の薄い内容を把握。興味を引く内容に変更  
ヒートマップ分析でサイト来訪者の関心の薄い内容を把握。興味を引く内容に変更  

 三井住友カードは今後も改善プロジェクトを継続していく方針だ。「3社の協業がうまく回り、半年で35回もABテストを実施できた。これはプロジェクト開始前の約3倍。それだけ早くPDCAが回り、改善スピードが上がっている。2017年の調査ではNPSも、前年から1ポイント向上している」と佐々木氏は語る。

MAツールを導入

 昨年7月にはMA(マーケティングオートメーション)ツールも導入し、開封率の向上などに取り組んでいる。その一例が、カード入会直後の一部顧客を対象に、昨年10月から始めた「伴走プロジェクト」という名称のメールマーケティングである。

 以前は、ETCカードなどの商品を案内するメールをメルマガ会員に、3カ月で平均12通も送っていた。そこで、このプロジェクトでは、カード入会後、間もない会員の一部に対しては送信するメルマガを「3カ月で6通以内」に制限した。しかも単なる商品紹介ではなく、支払日が毎月10日であることや利用限度額の連絡など、「お客様が知っておくべき情報を、丁寧に伝えるようにした」(佐々木氏)。すると、通数制限をした人たちは、メルマガを送りはじめてから3カ月後にも、51%がメルマガ会員であり続けた。従来の方法でメルマガを送っていた人たちは、3カ月後には41%しか会員として残っていなかったので、送り方の違いで10ポイントも差が付いたことになる。

 こうした成果が出たことからMAツールの活用をさらに進める方針だ。MAツールを導入してからの1年で約40の施策を実施したが、「2017年度中に100~150の施策を実施し、その効果を見極めたい」(佐々木氏)という。Webサイトやメールを通して顧客の利益になるようなコミュニケーションを推し進め、長い目で見た利益を目指す考えだ。

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