戸建て住宅販売のオープンハウスは営業部門を中心にLINE WORKSを導入し、活用を進めている。住宅の購入を検討している見込み客と営業担当者がLINEで直接つながって簡単に情報をやり取りできるためコミュニケーション密度を高められるという。

 「導入から、わずか数日で4500万円の一戸建てが売れた。まさかこんなことになるとは、想像もしていなかった」

 こう驚きの声を上げるのは、戸建て住宅販売のオープンハウスCIO(最高情報責任者)である田口慶二氏だ。同社は2017年2月2日に、営業部門を中心にLINE WORKSを導入した。

 オープンハウスはLINE WORKSを導入した後、自社の見込み客などに、これまでの電話やメールに加えてLINEでのやり取りが可能になったことを、営業担当者を通じて告知した。すると、ある担当者のところに20代の見込み客から、LINEの「友だち」登録が届いた。

 この見込み客は、営業担当者が電話やメールで連絡をしてもなかなか返信をしてくれなかったため、購入意欲が低いのだろうと見られていたという。ところが、LINEでのやり取りが始まると、トントン拍子に商談が進んだ。LINEでつながったのは金曜日だったが、その週末には戸建ての内見をして、週明けには成約となった。出来過ぎた話のように見えるかもしれないが、これは現実に起こった出来事なのだ。

セキュリティーがLINEの課題

 実は同社がLINE WORKSを導入した2月2日は、LINE WORKSの発売日で、同社はそのファーストユーザー企業である。以前からITを活用した改革に熱心で、2015年からは「デジタルトランスフォーメーション」と「モバイルシフト」をテーマに、業務フローの電子化や、モバイルを活用した業務効率の向上を進めてきた。

 例えば、従来は紙の稟議書を使っていた、土地を仕入れるための社内稟議のプロセスを電子化した。それまでは、社長決済が完了するまでに2週間を要していたが、わずか2日で完了するようになった。

モバイルシフトの一環として、全社員にiPhoneを配布している
モバイルシフトの一環として、全社員にiPhoneを配布している

 また同社は、モバイルシフトの一環として、全社員にiPhoneを配布している。見込み客に記入してもらった紙のアンケート用紙をiPhoneのカメラ機能で撮影して、アップロードするだけで、自動的にデータをシステムに登録できる仕組みも整えている。これにより、社員がアンケート結果をデータ入力する手間が大幅に減った。

 業務フローだけではなく、顧客や見込み客とのコミュニケーションもモバイルシフトを進めている。活用するツールとして、消費者の間に既に浸透しているLINEはうってつけだった。そのため田口氏はLINE WORKSが登場する前から、LINEを活用した営業活動に大きな可能性を感じていた。

 「メールは実際に読まれたかどうか、分からない。アウトバウンドの電話営業も進めていたが、こちらは相手の時間を拘束してしまう。LINEはその中間のサービスとして活用できるのではないかと期待していた」(田口氏)。しかし、「やり取りの中身が見えず、問題が起こったときに会社として責任を取れない」(田口氏)と考える会社は少なくない。LINEを会社に導入するうえで、セキュリティーの確保が課題になっていた。

 とはいえ、「顧客からも、LINEを使ってやり取りをしたいという要望が寄せられていた」(営業推進部企画の井川真一係長)こともあり、営業現場ではLINEを使いたいという声が高まっていったという。

 そこで営業部門は、営業担当者全員に、中小企業向けマーケティングツール「LINE@」のアカウントを付与してはどうかという提案を出してきた。これならアカウントを情報システム部門が管理できるため、セキュリティーの問題はクリアできそうだった。

 しかし、この提案があった当時はまだ有料プランしかなく、費用対効果が合わないという理由で見送りになった。

 こうした経緯があったため、LINE WORKSというサービスの登場は、オープンハウスにとっては“朗報”。だからこそ提供開始と同時に導入した。ユーザーインターフェースがLINEとほぼ同じで、導入教育がほとんど必要ないことも、LINE WORKS導入を決めた理由の1つだという。

 このLINE WORKSを実際に導入したのは、戸建ての販売部門と、土地の仕入れ部門。そして人事部門の3つの部門である。

名刺にQRコードを印刷

 「家は(多くの人が)人生で1度しか買わない。そんなお客さんが希望する条件に寄り添う形で、外部と内部の情報を可能な限り丁寧に伝えられるのが優れた営業担当者だ」と田口氏は話す。

 そんな優秀な営業担当者になってもらうため、LINE WORKSを活用することで顧客との距離をグッと縮めて、顧客とのコミュニケーションが活発になることを、田口氏は期待している。

 LINE WORKSの導入後、同社の営業担当者は、名刺の裏にQRコードを印刷するようになった。このQRコードを顧客がLINEで読み取ることで、友だち登録が完了する仕組みになっている。

オープンハウスのWebサイト。販売している物件情報などを掲載
オープンハウスのWebサイト。販売している物件情報などを掲載

 では、導入して何が変わったのか。目に見える変化の1つとして、田口氏が挙げるのは、顧客と対話する時間帯だ。従来は、営業担当者からのメールに顧客が返信してくるのは、夜が多かった。仕事を終え、帰宅してから返信する、ということなのだろう。

 現在は昼休みなど、仕事の合間だと思われる時間帯が増えているという。連絡してくる頻度も増えており、コミュニケーションの密度が高まっているという。

人材の採用活動にも活用

 一方、人事部門でも活用が進んでいる。新卒で採用するような学生たちは、いわばLINEで育ってきた世代である。そうした学生たちにとって、LINEはメールよりも使い慣れているツール。会社に連絡する際のハードルを少しでも低くしておくことが、採用活動にも効果的だろうと考えている。

 こうして活用が進んでいるLINE WORKSだが、不満な点もある。それは、「グループトーク」の機能が、LINEとは違うことだ。通常のLINEでは、複数の人が参加するグループトークを作って会話ができる。一方、LINE WORKSは、LINE WORKS利用者同士ならグループトークができるが、LINE WORKSとLINE利用者との間ではできない。すると何が困るのか。それが、夫婦二人と商談する場合だ。「店頭などで接客する場合は、夫婦の両方がそろっている方が、圧倒的に成約率が高い」(田口氏)。

 ところがLINE WORKSではグループトークが使えないため、営業担当者は夫婦のそれぞれと別々に会話をしながら、客の意見を擦り合わせなければならない。今後、LINE WORKSの機能が改良され、グループトーク機能がLINE利用者との間でも使えるようになれば、営業効率をさらに高めることにつながるのではないか、と期待している。

 このようにオープンハウスは、ITの活用によって業務フローの改善や営業効率を上げることで急成長を遂げている。2017年9月第2四半期は売上高が前年同期比で26.6%増となる1483億円になった。今期は過去最高となる売上高3000億円を見込んでいる。さらなる成長に向けて、ITの活用をいっそう加速させていく考えだ。

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