ロイヤルホールディングス傘下で、リッチモンドホテルを運営するアールエヌティーホテルズ(東京都世田谷区)が、ネット上のクチコミを分析してサービスの改善やマーケティングにつなげる動きを強めている。ネット上のクチコミ内容を分析して数値に変換し、「立地」や「料金」「接客」といった項目ごとにまとめて集計・評価するシステムを昨年11月、長崎思案橋店(長崎市)と浅草店(東京都台東区)の2つのホテルで利用開始。効果が高いという手応えを得て、今年6月から全34ホテルへの導入に踏み切った。

 背景には、「予約全体に占めるネット予約の割合が70%を超えた」(アールエヌティーホテルズ営業本部長補佐兼営業企画・情報システム部課長の本山浩平氏)という事情がある。

 客の70%以上を占めるネット予約ユーザーは、ホテルに宿泊した感想を、FacebookやTwitterといったソーシャルメディアや宿泊予約サイトなどに、気軽に書き込むことが多い。そこで、これらのネット上の声を拾ってサービスの改善やマーケティングに生かせば、「効率的にユーザーの満足度向上につなげられる」(本山氏)と考えたのだ。

 ネット上のクチコミについての具体的な分析はこんな感じで進む。

 まず、「料金」「設備」「客室」といった項目ごとに、好意的なコメントを「ポジティブ」、批判的なコメントを「ネガティブ」として集計する。すると項目ごとに、それぞれのコメントがいくつ寄せられているかがまず分かる。

 実際、先行してシステムを導入したホテルの1つは、客室についてネガティブなコメントの数が目立っていた。その中味を見ると、「異臭がする」という訴えが多い。そこでシステムを使い、直近だけでなく過去数年に遡ってネット上のクチコミを調べ、同ホテルに対して「異臭がする」というクチコミがネット上で突出するのは、梅雨入り前後の時期が多いと突き止めた。

 これを踏まえて調査した結果、異臭はエアコンが湿気を拾った結果として発生していると判明。エアコンを埋め込んである天井などに、湿気を寄せ付けない防水コーティング処理などを実施して、以後の異臭の発生を防いだという。「それまで何となく感覚で分かっていたことを、データとして明確に示すことで、改善のスピードを引き上げられた」と本山氏は強調する。

主要宿泊サイトで4.5点以上は人事評価にプラス

 アールエヌティーホテルズでは、導入したシステムを原則、ホテルごとにサービスの改善やマーケティングに生かす方針。サービスの改善などの結果、ホテルが「楽天トラベル」や「じゃらんnet」といった主要な宿泊予約サイトで、5点満点で4.5点以上の評価を得た場合は、「当該ホテルの支配人や主要スタッフは人事評価でプラスになる」(本山氏)。こうした仕組みが既にあるため、ホテルごとにモチベーションを高めるほうが効果が高いと判断した。各ホテルの成功体験は、「毎月1回開く会議で共有し、各ホテルの判断で横展開できるようにした」(本山氏)と言う。

今年5月に全面リニューアルしたリッチモンドホテルの公式予約サイト。スマートフォンでも見やすい
今年5月に全面リニューアルしたリッチモンドホテルの公式予約サイト。スマートフォンでも見やすい

 もっとも、全体に関わるサービス改善は本社で進める。例えば5月、アールエヌティーホテルズは自社の公式予約サイトを全面リニューアルした。ネット上のクチコミの調査や宿泊客の属性調査などの結果、「ビジネスホテルの主な用途が、ビジネスパーソンによる出張時の宿泊から、カップルや家族によるレジャー目的の宿泊に急速に変わりつつある」(本山氏)ことが明確になったからだ。

 そこで出張し慣れたビジネスパーソンではなく、初めて公式予約サイトを使うユーザーにも分かりやすいようにデザインを変え、少ないクリックでも予約できるようにインターフェースも工夫した。加えて、スマートフォンでも見やすいように、表示された機器の種類や画面サイズに応じて表示内容を最適にするレスポンシブデザインを採用。さらに、リニューアル前よりも多くの情報を公式予約サイトに掲載するようにした。その結果、微減が続いていた公式予約サイトの利用者は、「わずかながら増加に転じつつある」(本山氏)と言う。

 今後はこのシステムを、サービスの改善だけでなく、各ホテルのマーケティングにも積極的に活用していく考えだ。

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