登録者数12万人。はなまるの3倍ものメルマガ読者を抱えていたにもかかわらず、休刊という決断を下したのが、ジローレストランシステム(東京都渋谷区)だ。イタリア料理店の「マンマパスタ」のほか、さまざまな業態の飲食店を、フランチャイズ店を含め全国に138店舗、展開している。同社は昨年10月をもって、メルマガからLINE@を活用したコミュニケーションへと完全に移行した。
(2)LINE:
12万人の会員を捨てる決断、個人情報不要の会社に利点
ジローレストランシステムのメルマガは効果が低かったわけではない。その効果は、同社にとってメルマガと同様にマーケティングの主力策である、折り込みチラシと比較すると分かりやすい。いずれも、まいたクーポンの回収率を成果指標としている。その指標で比較した場合、折り込みチラシは、高かったとしても回収率はわずか0.05%。10万枚を配布しても50人の来店にしかつながらない。一方のメルマガは、「高い場合で1%を超えることもあった」(営業推進部Web担当の右田弓子氏)。折り込みチラシの20倍超の効果である。
高い来店効果が見込めるため、店舗からも好評だった。それゆえ、読者の獲得にも店舗スタッフは協力的だった。来店者への声がけや、登録で割り引きになるキャンペーンなどを実施することで、順調に読者を増やした。効果を実感していたため、活用にも力が入る。月に2~4回のメールを配信。父の日などのイベントとの連動企画はもちろん、登録者情報に基づき誕生日月には特別なクーポンを配信するなど、意欲的に取り組んだ。
ところが、順風満帆に思えたメールマーケティングにも陰りが見え始めた。「2013年頃から、メールのトラブルが増え始めた。iPhoneへの機種変更でアドレスが変わったため、変更したいという要望が増え始めたのもこの頃。また、基本的には店舗単位でメールを配信していたが、クリスマスシーズンに一斉配信でディナーの利用を案内したところ、数千件がエラーで配信されなかった」と右田氏は振り返る。エラー件数は前年と比較しても大幅増。この結果から、「メールは急速に届かなくなっている」(右田氏)と不安を募らせた。

いずれメールは届かなくなるのではないか。そう考えた右田氏が代替となるコミュニケーション手段として目をつけたのがLINEだった。改めて自らを振り返れば、友人知人に加えて仕事関係の連絡にもLINEを活用している。一方でメールはというと、企業から届くメルマガは受信ボックスに山積みになり、目を通すこともなくなっていた。それは一般の消費者も同じであろう。この仮説の下、LINE@の導入を決めた。
右田氏の仮説は、本誌の調査でも、データとして立証されている。「企業・ブランドからの情報を受け取る手段として、最も利用するサービス」を尋ねたところ、Eメール(37.0%)を抑えてLINE(53.3%)が最も利用される結果となっている(下図)。2つのサービスを併用している消費者は今も多い。だが、主たるサービスはLINEへと移り変わっていると言えよう。

とはいえ、メルマガからLINEにいきなり乗り換えられるわけではなかった。「店舗から猛反対に遭った。特に郊外の店の反発が強かった」(右田氏)。効果がある施策をやめる理由が分からない。店舗がそう考えるのも無理はないだろう。そこで、とりわけ反対意見の強かった郊外店を含め、さまざまな業態から10店舗を抽出し、店舗ごとのアカウントをテストのために開設。2015年5月からメルマガと並行して活用し始めた。
まずLINEとメールの併用で検証
まずメルマガ会員のうち対象店舗に登録する会員に絞って、LINE@によるサービスの開始を知らせるメールを配信し、移行を促した。平均で2~3割の既存メルマガ会員がLINE@にも登録したという。また、運用面ではLINE@でのメッセージ配信について、メルマガよりも添付する画像を増やした。というのも、メールでは添付画像を開く必要がある場合があるが、LINEではすべてメッセージ上に表示される。そのため、言葉よりも写真で視覚的に料理の魅力を伝えるほうが効果的と考えたからだ。こうして、およそ3カ月のテスト期間を費やし検証を重ねた。
結果としては、LINE@のクーポンの使用率はメルマガと同水準となった。また、メールアドレスという個人情報を入力する必要がないため、登録のハードルもグッと下がったと感じているという。ジローレストランシステムとしては、近年増加する企業による個人情報漏洩への懸念があり、個人情報を自社で所有しないことを望んでいた。その点でも、個人情報を必要としないLINE@は意図に合致していた。
さらに、「LINE@はメルマガと比べて、情報に広がりが期待できる」という別の効果も見られたと右田氏は言う。LINEでは、メッセージで得たクーポンを友人に共有することができる。ただし、クーポンを得るには該当のアカウントへの登録が必要になる。メルマガでは人に転送するという行為は起こりにくいが、LINEでは人から人へと情報が広がるケースも見られた。
こうした成果に店舗側も、LINE@への移行は問題ないと判断した。「年配のメルマガ登録者への配慮に欠けるのではないか」という指摘もあった。これには右田氏はこう答える。「当社の役員陣も含めて、年配のかたの間でもスマートフォンは普及している。また、そもそもメールでクーポンを得ようというほど情報感度が高い人であれば、スマートフォンを利用している可能性は高い」。
現在は約50店舗でアカウントを開設している。登録者数は6万人超。移行から約半年で、メルマガ会員の半数に当たる数を取り戻した。店舗によっては5500人を超える登録者を獲得できている。今後、LINE@のアンケート機能なども利用しながら、活用法をより高度化させてさらなる効果向上を目指す。