スマートフォンの普及とSNSの利用拡大で、メルマガは大きな岐路を迎えている。休刊を決断した各社の事情から、今の時代にふさわしい顧客接点を探った。

 「メールマガジンに関しては、効果がみられないため、以前からやめたいと思っていた」

 吉野家ホールディングスグループで、讃岐うどんチェーンを展開するはなまる(東京都中央区)の経営企画室販売促進担当の高橋淳氏は、こう振り返る。同社は昨年11月にメルマガを休刊。自社コミュニティーを中心に据えた消費者とのコミュニケーションへと戦略を大幅に変えた。

 はなまるは休刊以前、メルマガの登録者数10万人という目標を立て、実店舗内に張ったポスターや机に設置した卓上型のPOP(店頭広告)などで登録を促してきた。しかし、登録者数は3万人にとどまり、減少傾向にあった。「配信するたびに1000人単位で配信エラーが起こる。さらに50~60人から配信停止の要望が届くような状況。一方で、新規の登録者は1日に数人程度」(高橋氏)だった。

はなまるうどんは、昨年11月にメルマガを休刊。自社コミュニティーとSNSの活用にプラットフォームを移した
はなまるうどんは、昨年11月にメルマガを休刊。自社コミュニティーとSNSの活用にプラットフォームを移した

 この傾向が顕著になり始めたのは、「スマートフォンが普及し始めた頃からだ」と高橋氏は話す。アップルの「iPhone」の登場を機に、家電メーカーが相次ぎスマートフォン市場に参入。爆発的に利用が広がった。この時、大手携帯電話会社が提供するメールサービスは、スマートフォンへの対応に遅れたうえ、度重なる障害も起こし、ユーザーからの不信感を招いた。また、電話番号を変えずに電話会社を乗り換えられる「携帯電話・PHS番号ポータビリティー(MNP)」制度に起因する顧客の奪い合いも、メール離れを招いた。MNPを利用した場合、電話番号は引き継げるが大手携帯電話会社が提供するメールアドレスは引き継げない。大手携帯電話会社の提供するメールサービスのアドレスは、キャリアの変更で変わってしまう。

 ソーシャルメディアの利用拡大も、こうした“キャリアメール(携帯電話会社のメールサービス)離れ”を加速させた。典型例がスマートフォン向け無料通話・メールアプリ「LINE」の普及だ。LINEは大手携帯電話会社がスマートフォンへの対応に手間取る隙を突いて、急速に利用を拡大させた。今や消費者間のコミュニケーションツールとして大手携帯電話会社のメール以上に定着している。

1日当たりの利用回数でLINEがキャリアメールを抑えてトップに(n=2750)
1日当たりの利用回数でLINEがキャリアメールを抑えてトップに(n=2750)

 その証左となるのが上のグラフだ。調査会社のMMDLabo(東京都渋谷区)が運営する「MMD研究所」がスマートフォンゲーム事業のコロプラと共同で、2015年12月14日に発表した「2015年版:スマートフォン利用者実態調査」で紹介されているデータである。スマートフォンを持つ15歳以上60歳未満の男女2750人を調査対象としている。

 この調査では、消費者が「キャリアメール」、「SMS(ショート・メッセージ・サービス)」、「LINE」のそれぞれで、1日当たりのメッセージの利用回数について尋ねている。その平均を算出した結果、「キャリアメール」が3.8回、「SMS」は3.5回、「LINE」は11.5回となり、LINEがキャリアメールに3倍という大差をつけて圧勝した。キャリアメールとSMSについては、約半数が1日に利用する回数を0回と答えていることにも驚きだ。それゆえ、「メルマガの会員数の伸び悩みや開封率低下という問題を抱える企業からの、LINEのマーケティングサービスに乗り換えたいという相談が非常に増えている」(LINE)という。

 このように消費者のコミュニケーションのツールとして、キャリアメールの利用頻度が下がる中、メルマガに手応えを感じられず、配信を終了する企業が増えている。下表には、この1年以内にメルマガを休刊した主な企業をまとめた。「ゼスプリ キウイ」ブランドで知られるゼスプリインターナショナル ジャパンは昨年9月に12万人もの登録者を有したメルマガを休刊している。開封率が1桁に低迷し、投資効率が下がっていたことが原因だ。東京・新宿の「アルタ」や神奈川・横須賀の「横須賀モアーズシティ」など商業施設のメルマガ終了も相次いでいる。

メルマガを休刊した主な企業
メルマガを休刊した主な企業

 ただ、これは氷山の一角であろう。メルマガの継続について、どうすべきか頭を抱える企業は少なくないのではなかろうか。とはいえ、メルマガを終了することは簡単ではない。効果が減少していても数万人以上の読者を持つ場合、社内からの反発も少なからずあるはずだ。決断のポイントを3社の事例から探る。まずは、コミュニケーションの“場”を自社コミュニティーへと移したはなまるだ。

(1)自社コミュニティー:
登録者数の減少が課題、コミュニティーでCRM強化

 はなまるが、メルマガの終了を検討し始めた当時の登録者数は3万人。決して少ない数ではない。それゆえ、メルマガの存続を検討する社内の議論では、「3万人の読者を捨てるのはもったいない」という声も少なくなかった。先述したように、同社のメルマガはスマートフォンの普及以降、登録者数は徐々に目減りしていた。高橋氏としては「十分な投資対効果が得られていないことから、やめた方がよい」と考えていたものの、メルマガに代わる有効なコミュニケーションの手段を持たない状態では、社内の納得を得るのは難しい。

 メルマガが抱えていた課題は、登録者数の減少だけではない。配信頻度とコンテンツ不足も高橋氏にとって頭痛の種だった。はなまるのメルマガの配信頻度は2~3カ月に1度、新商品の発売に合わせてクーポンを送っている程度。もっとも、週1回配信するなど頻度を高めることも検討はした。しかし、ここでコンテンツの壁にぶち当たる。「毎週、メルマガとしてしっかりとした内容を伝えられるほどの情報がない」(高橋氏)。そのため、「せっかくメルマガに登録したにもかかわらず、何も届かない」といった消費者からのクレームを招くことさえあった。

 一方で、手応えを感じ始めていたのがFacebookページである。「FacebookやLINEは消費者の間で活発に利用されているため、告知するだけで登録者が増える。メルマガは魚のいない場所で必死で釣りをしているような感覚だった」と高橋氏は表現する。はなまるはその後、LINEのマーケティングサービス「LINE@」を活用して、公式アカウントも開設しており、こちらも順調に登録者が増えている。

 マーケティングはしばしば、釣りに例えられる。同社も、消費者が活発に利用するプラットフォームという、“魚がいる場所”に出向くことが、効率的な会員獲得につながると考えた。Facebookページには1万3000人超のファンがおり、LINE@は全体で2万人が登録していて、累計では既にメルマガの会員数を超えている。また配信するコンテンツも、写真や画像がメーンのため、より手軽に配信もできる。

複数のSNSのコンテンツを集約

 とはいえ、ソーシャルメディア上に集めたファンは、正確に言えば「自社の会員」ではない。そこで、各ソーシャルメディアや広告から誘導する受け皿として、新たに開設したのが自社コミュニティーサイトだ。ここにソーシャルメディアからユーザーを集客し、CRM(顧客関係管理)の一環としてより濃いコミュニケーションをすることで、はなまるうどんのファンを醸成するのが目的だ。

 同サイトはFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアと連動しており、すべてのコンテンツが一元的に見られる、ソーシャルメディアのまとめサイトのようなイメージだ。ここにクーポンや独自の記事などを掲載していく。複数のプラットフォームで配信されたコンテンツが掲載され、コンテンツの数が増えるため、「メルマガで登録者から指摘のあった、登録したけれど配信されないという事態を防げる」(高橋氏)。

 またコミュニティーサイトは、メールアドレスだけではなく、活用しているソーシャルメディアやLINEのIDと連携して、会員登録できる機能を持つ。基本的にログインして利用するサービスのため、メルマガのように、アドレス変更でメッセージが会員に届かなくなることもない。

 売り上げへの貢献も表れ始めている。「コミュニティーはクーポンの使用率が高く、会員のうち約6%が来店して利用してくれる。メルマガは2%程度だったため、4ポイントも高い」と高橋氏は明かす。これは、コミュニティーサイトにはなまるうどんの情報を能動的に見に来るようなファンを、きちんと囲い込めていることによる成果だろう。

 こうして、登録者が減少し、効果も薄れているメルマガよりも、ソーシャルメディアとコミュニティーのタッグのほうが投資対効果が高いと社内に示して、コミュニケーションの代替手段になると説明。

 納得を得た上で、メルマガの配信を停止して、本格的に新たな施策をコミュニケーション戦略の柱に据えた。はなまるうどんのコミュニティーは順調な滑り出しを見せているが、いかにして高いアクティブ率を維持するかが今後の成長のカギとなりそうだ。

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