資生堂が「LINE」をCRM(顧客関係管理)戦略の重要チャネルに据えている。同社は企業の顧客データベースなどと、企業のLINEアカウントを連携できる「LINEビジネスコネクト」をいち早く導入した一社だ。自社EC(電子商取引)サイト「ワタシプラス」とLINE IDをひも付けた会員に対して、顧客データを活用してメッセージを出し分けることで効果を高めてきた。

友だち数より顧客DBとの接続者数を重視へ

 こうした取り組みをする中で手応えを感じたことから、「これまでは有効な『友だち』数を重視してきたが、LINEとワタシプラスの接続者数を重視するように戦略を変更した」(EC事業推進部の仙田浩一郎グループマネージャー)。

 資生堂は昨年、自社内のデータや第三者の持つオーディエンスデータなど、デジタルマーケティングに関わるすべてのデータを統合的に蓄積するためのプライベートDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を構築。このDMPに蓄積したデータを、LINEのメッセージの出し分けにも活用してきた。

LINEビジネスコネクトを活用した配信例
LINEビジネスコネクトを活用した配信例
■条件
・ワタシプラスの会員
・女性 ・20~50代
・キャンペーン以降に、特定の商品の購入履歴がないこと
・キャンペーンを告知する特定メールを開封していないこと
LINEの提供するセグメント配信活用例
LINEの提供するセグメント配信活用例
■条件
・女性 ・20代後半~50代

 例えば、商材を軸にした出し分け。「リバイタルグラナス」というエイジングケア向けの商品を中心に展開するブランドであれば、30代以上の人にだけ配信する。スキンケアブランド「アルティミューン」のオリジナルバッグ付き限定商品の告知では、LINEに接続したワタシプラス会員のうち、20~50代でかつ特定の商品の購入履歴がないなど、複数の条件を組み合わせて配信した。

 2017年1月からは、自社で保有するデータだけではなく、LINEの保有するデータを活用した配信にも取り組み始めた。LINEはサービスの利用データから推測した、性別や年代といったデータでグループを作って、メッセージを配信できる機能も提供している。これを活用すれば、ワタシプラスとLINE IDを接続していない友だちであっても、メッセージの出し分けができる。美白ブランド「HAKU(ハク)」のトライアルセットの告知は、LINEのデータを用いて20代後半~50代の女性にだけ配信した。

 資生堂がデータに基づくメッセージの配信に注力するのには理由がある。それはブロック率の低減だ。LINEの利用者はボタン1つで簡単に企業の配信をブロックできてしまうため、「資生堂に関心があって友だち登録してくれたはずなのに、必要のない情報ばかり受け取るとすぐにブロックされてしまう」(EC事業推進部の吉本健二氏)。このブロック率をいかに下げるかが、資生堂にとってもLINEを活用する上で大きな課題だった。

 対策の1つが無料でダウンロードできる大型絵文字「スタンプ」の活用だった。企業が配信するスタンプは、ブロックを解除しなければダウンロードできないため、一時的にブロック率を下げることができる。ところが「スタンプでブロック率を下げても、しばらくするとまたブロック率が高まる。そのたびにスタンプを配信していては、コストがかかりすぎる」(仙田氏)。そこで、登録者により適切なメッセージを配信するデータ活用に力を割き始めた。受け手にとって関心の高い情報を届ければ、ブロック率の低下につながると考えたからだ。

 この狙いは的中した。データを用いてきめ細やかな配信をした今年2月以降、「月間のブロック者数は2016年のピーク時と比較して、最大で半分に抑えられている」(EC事業推進部の川口朋子氏)。メッセージを出し分けることで効果を高めながら、ブロック率も低減できることが立証された。このことから、ワタシプラスとの接続者を増やすことがLINEの持つ力をより発揮できると判断。CRMの重要チャネルとしてLINEの活用強化に踏み切った。

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