「事故で武蔵小杉駅はかなり混雑しているようだ。JRに乗り換えず、遠回りだが横浜駅に戻り、JRか京浜急行線で都心に向かおう」

事故の時だけでなく、いろいろなケースで経路の検討に活用できるのが、東京急行電鉄のスマートフォン向けアプリ「東急線アプリ」だ。今年3月から「駅視-vision(エキシビジョン)」というコンテンツを導入し、駅構内の混雑状況を画像で配信している。構内にある防犯カメラの画像を、個人が特定できないように自動的に加工。5分間隔で更新し、アプリで見られるようにした。今は実証実験中で、武蔵小杉や溝の口、三軒茶屋など6駅限定だが、今後、対象を拡大していく計画だ。
文字による遅延情報に加え、駅の混雑状況を目で確認できるのは、利用客にとってメリットが大きい。
この「駅視-vision」の導入などもあり、東急線アプリのダウンロード(DL)数が急激に伸びている。今年1月末で約20万7000件だったDL数は5月末に25万5000件へと伸びた。リニューアル前の昨年9月末の約1.9倍で、「リニューアル時の目標は既に突破した」(鉄道事業本部事業推進部鉄道CS課の田島慎太郎主事)。
アプリのコンセプトを大転換
東急電鉄は、アプリのリリースから2年となる昨年春、アプリのコンセプトを思い切って見直した。当初はO2O(オンラインtoオフライン)の基盤という位置付けだったが、利用者などから要望の強かった「鉄道やバスの運行情報」を中心にした。「鉄道やバスの運行情報で出せる情報はすべて出し、安心して利用してもらう」(田島氏)ことを目指した。アプリを、鉄道とバスのサービス品質を強化する支援策と位置づけ直したのだ。
具体的には昨年10月、列車がどの駅の付近にいるかが一目で分かる「列車在線位置」情報や「時刻表」、乗りたいバスがどこを走っていて、あと何分で指定の停留所に来るかが一目で分かる「バスナビ」といったコンテンツを掲載。これらのコンテンツが支持されてDL数が増え、さらに「駅視-vision」の導入で勢いが加速した。
今後も、鉄道やバスの利用客の利便性を高める機能を強化する方針だ。外部の企業と協力して、現在地から目的地までの経路が一目で分かるように見せるコンテンツを開発したり、現在のユーザーインターフェースをさらに分かりやすく見直したりすることを検討しているという。
東急線が相互乗り入れしている他の鉄道会社と協力し、相互乗り入れ先の運行情報を表示することも考えているという。すべての東急線の1日の利用客は約100万人。DL数がその半数を超えれば、新たな展開も可能になりそうだ。