「40才からのベタつくニオイに」「40才からのアブラ肌対策に」「40才からカラダは変化する」――。
昨年8月から、マンダムは男性用シャンプーや整髪剤、化粧水などのグルーミングブランド「LUCIDO(ルシード)」で、「40才からの」とターゲット層を明確にしたプロモーションを展開し、ニオイケアシリーズの商品を中心に売り上げを伸ばしている。
40才からのと銘打つルシードの広告を見て、「もっと若者向けブランドではなかったか?」と思う人も少なくないだろう。ルシードブランドの誕生は、元号が平成に変わった1989年。香りが強めの商品が好まれたバブル期に、アンチテーゼとして「香りのない男の世界」をコンセプトとする無香料の整髪剤を売り出した。当時の対象は学生や若手社会人だった。第二次ベビーブーマー世代が20代だった90年代半ばに売り上げのピークを迎えるが、この世代が若者層から外れていくとともに整髪剤離れが起き、売り上げが漸減。2010年にはピーク時の6割近くに落ち込んでいた。
ただ手をこまぬいていたわけではない。ターゲット層を30~40代へと徐々にシフトさせながら、技術開発のセクションではミドル世代特有のニオイについて研究していた。そして、汗臭とも加齢臭とも違う、後頭部や首の後ろから発生する脂っぽい汗のニオイを突き止め、対応する商品を開発。「ミドル脂臭」と命名して、その対策を訴えかけた。
これまで中年男性のニオイは加齢臭で一括りにされ、ゆえに30~40代男性には加齢臭対策は「まだ早い」という意識が強く、ケアされてこなかった。そこで取り組んだのがミドル脂臭の啓発だ。ルシードブランドのマーケティングを担当する同社第一マーケティング部の田渕智也氏は、「後頭部から発するため男性本人が気づきにくいこと、女性の方がそのニオイに気づきやすく不快感を与えることなどを説明して、対策の必要性を“自分ごと”として認識してもらえるようなコンテンツづくりに注力した」と説明する。

多用したのが、ネットリサーチを実施してつくる調査リリースだ。「冬でも85.8%の女性が気になる30~40代男性のニオイ!そのニオイ“ミドル脂臭”かも?」(2013年12月)、「臭う場所1位は“夫の近く”60.9%、夫婦の関係とニオイ問題」(2014年1月)、「臭い上司・同僚とは仕事をしたくない42.1%、でも言えない 全体の93.1%」(2014年6月)といった形式でニュースリリースにまとめ、プレスリリース代行サービス「PR TIMES」で配信。Webニュースメディアがミドル世代男性に危機感を抱かせる筆致でこれを記事化したことで、バイラルメディアやニュースアプリを通じて広く拡散した。
昨夏から、よりターゲット層を明確にして自分ごと化を図るため、40才からのと銘打った広告フレーズを商品パッケージ、Webコンテンツから店頭POPまで統一し、訴求に取り組んでいる。
ボトムから売り上げが60%増加
一方、ニオイはセンシティブな問題でもあるため、煽る一方にならないよう配慮も欠かさない。「【オトナ男性に朗報!】20代・30代女性の53%が、40代以上の男性に“惹かれる”」(9月2日)といった調査リリースで、ケアを心がければいいこともある(かもしれない)と“その気”にさせるバランス感覚は巧みだ。また、ルシードのテレビCMに出演している俳優の田辺誠一さん作の脱力系のイラストはLINEスタンプになるなど人気を博していることから、“田辺画伯”筆による「ミドル脂臭怪人」イラストを特設サイトで公開している。
こうしたコンテンツ訴求が奏功し、ルシードブランドの売り上げは2010年前後のボトムから約60%増加し、過去最高の売り上げを達成するに至った。約20年前、無香料のコンセプトを支持しながらルシード離れしていったかつての若者を、ミドル世代になった今、再度取り戻すことに成功したユニークな事例だ。
同社はミドル男性向けのアンケートを定期的に実施し、身だしなみにとどまらず、仕事や家庭、お金など人生観に迫る意識調査を白書にまとめてもいる。田渕氏は、「ミドル男性のことを最もよく知っているメーカーとして、問題意識や悩みに寄り添いながら、スマートエイジングを支援していきたい」と意気込む。