日経デジタルマーケティングは5月29日、東京・大崎の大崎ブライトコアホールで、「D3 WEEK 2017プレセミナー『AI×IoT×デザインで変わる未来を見通す』」を開催した。D3とは「Digital×Data×Design」を意味する。デジタル・トランスフォーメーション時代には、この3つのDが企業の成功のカギを握る。今回はその講演の模様を3回にわたってレポートする。

 プレセミナーの最後の講演に登壇したのは、パナソニック全社CTO室技術戦略部ソフトウェア戦略担当 理事という肩書きを持つ梶本一夫氏。「Panasonicが取り組むIoTライフ」という講演タイトル通り、パナソニックが今取り組んでいるIoT(インターネット・オブ・シングス)戦略を詳細に紹介した。

パナソニック パナソニック全社CTO室 技術戦略部 ソフトウェア戦略担当 理事の梶本一夫氏
パナソニック パナソニック全社CTO室 技術戦略部 ソフトウェア戦略担当 理事の梶本一夫氏

 講演冒頭、梶本氏は「現在のようなモノ余りの時代では、客観的価値は相対的に低下し、主観的価値が刺激されないと、そのモノやサービスを欲しいとは思わない。つまり、モノからコトへ、共感を呼ぶストーリーが重要になっている」と語った。だからこそ、インダストリアルデザインはUX(ユーザーエクスペリエンス)が大事になるというのである。では住まいにおけるUXとは何か。梶本氏は「住まう人ごとに『変化+共感型』のコンテンツサービスを提供すること」だと説明する。

 そしてこのUXを実現するために必要となる技術の一つがIoTやAI(人工知能)であり、パナソニックではそれを活用するため、さまざまな技術開発に取り組んでいる。

 例えば2016年4月に、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ(東京都港区)と大和ハウス工業との3社合弁で設立したセブン・ドリーマーズ・ランドロイド(東京都港区)では、洗濯、乾燥、アイロン、たたみ、収納を自動化する技術の開発を行っている。その他にも、自動運転の技術に欠かせないミリ波レーダーの高精度・広視野角化技術、コンビニエンスストアなどのレジを自動化するレジロボ、物流の負荷を削減する自動搬送ロボットの開発や実証実験などに取り組んでいる。

 「東京・有明地区には研究拠点『パナソニックラボラトリー東京』、大阪には共創の場『Wonder Lab Osaka』という共創の場を設置。社内外の人たちとコラボレーションすることで、AIやIoTなどの最新技術の研究開発を加速させている」と梶本氏は語る。

東京・有明のショールームで体感できる

 AIやIoTの活用により、スマートホーム化が進むとどのような生活が実現するのか。それを体感できるのが、東京・有明にあるパナソニックのショールームに常設展示されている「Wonder Life-Box(WLB)」だ。同展示場ではAR(拡張現実)によるファッションシミュレーションや非接触センサーによる24時間健康管理、人感センサーによる照度や室温の制御など、パナソニックが考えるこれからの新しい住まい、スマートホームが体験できる。

 「スマートホームはまず、家庭で使われるエネルギーを管理する『HEMSサービス』から入り、その後、IoT基盤を整備していくことになる見通しだが、まだまだ課題がある」と梶本氏は語る。

 第一の課題は、事業者ごとにユーザーIDが発行されたり、IoT基盤が乱立したりしていることだ。もっとも、IoT基盤乱立の問題は解決が見えてきた。Webで使用される各種技術の標準化を推進する団体「W3C」のWeb of Thingsワーキンググループが、Web技術を用いて複数の基盤をまとめる、ワンストップ・ユニバーサルプラットフォーム化を進めているからだ。同ワーキンググループの議長を務めるのはシーメンスだが、パナソニックも副議長として参加していると梶本氏は言う。

 もう一つの課題がIoTセキュリティーだ。「IoTの場合、情報漏えいすると直接的に生命や財産が侵されるリスクがある」と梶本氏は語る。パナソニックでは、IoTソリューションのセキュリティーについては、ホワイトハッカーによるセキュリティー検証を実施。「検証段階でハッキングされた製品は商品化しないことを徹底している」(梶本氏)という。ただ、ハッキング技術は日々、進化しているため、市場に出た製品やサービスにセキュリティー上の問題が発生する可能性もある。同社ではそうした事態にも対応できる体制を整備しているという。

 消費者が求める住まいを提供するためには、セキュリティーの確保なども含め、パナソニック1社だけで対応するのは難しい。「さまざまな企業と連携して、消費者が求めるアプリケーションを提供するためのエコシステムを構築する。そして究極のユーザー体験を提供していきたい」。梶本氏は最後にこう語り、セッションを締めた。

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