日経デジタルマーケティングは5月29日、東京・大崎の大崎ブライトコアホールで、「D3 WEEK 2017プレセミナー『AI×IoT×デザインで変わる未来を見通す』」を開催した。D3とは「Digital×Data×Design」を意味する。デジタル・トランスフォーメーション時代には、この3つのDが企業の成功のカギを握る。今回はその講演の模様を3回にわたってレポートする。
2つ目の講演のテーマは、「デジタルを活用したCustomer Experienceと体験型エンターテイメント空間の未来」。デジタル技術を活用した未就学児童向けの新しい体験型エンターテイメント「ふしぎなかみひこうき」を開発したナムコの内藤浩司氏と、同空間を実際に企画し、作り上げたデジタルクリエイティブ集団、ワン・トゥー・テン・ドライブ(1→10 ドライブ)の代表取締役である梅田亮氏、同社プランナー北原妙子氏、同社3DCGアーティストの白井慧氏の4人によるパネルディスカッションが行われた。ファシリテーターは梅田氏が務めた。


「ふしぎなかみひこうき」は、ショッピングセンター「イオンモール富谷(宮城県富谷市)」にある未就学児童向けのプレイグラウンド「あそびぱーくPLUS」内に設置された新コンテンツである。現在、ナムコではイオンモール富谷を含め全国6カ所であそびぱーくPLUSを運営している。同施設の1回あたりの利用単価は1500円~1700円で、同様の施設と比べると1.5~1.7倍の単価となっている。それだけの利用単価にふさわしい価値や体験を提供するため、「新コンテンツの開発が不可欠だった」と内藤氏は新コンテンツを開発した理由について語る。
同コンテンツの最大の特徴は、プロジェクションマッピングや測域センサーなどの最新技術を活用し、子どもにとってリアルファンタジーな世界観・ストーリーを提供していることだ。加えて、「紙飛行機を実際に折って飛ばす」というアナログな体験が組み込まれていることも大きな特徴である。その理由について内藤氏は、「デジタルだけだと淡泊になりすぎるため」と説明する。


ナムコにはデジタルとアナログを組み合わせた成功の先例があった。それが昨年夏に東京・お台場で展開していたVRアクティビティー「ガンダムVR『ダイバ強襲』」だ。「VR映像内で、敵方のモビルスーツが携帯するヒートホークという武器が参加者に近づくと、シート横のヒーターが連動して動作し、熱を発するようにした。すると臨場感が増し、お客さまの反応がよかった」と内藤氏。そのようなアイデアを今回も入れたいと考えたのである。実際に同コンテンツのプロデューサーを務めた北原氏も「デジタルコンテンツの企画にはアナログ力が必要だと感じた」と明かす。
世界観やストーリーにも工夫
仕掛けだけではない。子どもたちに10分以上遊んでもらえるよう、世界観やストーリーも練られている。その設計を担当したアートディレクター兼クリエイティブディレクターの白井氏は、「『ストーリーに干渉しない冒険(紙飛行機が壁に当たると映像が表れ、さまざまなおもちゃに変化し、冒険する)』と『主軸のストーリー(物語の締めくくりで、ボスキャラに捕まったおもちゃを助ける)』という2つの軸がある構成にし、自由な体験のアイデアとストーリーを両立できるアプローチにした」と説明する。ストーリーに縛られることなく、さまざまなユーザーエクスペリエンス開発に注力できるようにしたのである。
梅田氏が3人に対し、ふしぎなかみひこうきの開発で大変だったことについて尋ねたところ、内藤氏は「そんなにない」と前置きした上で、「開発者側のいろいろやりたいという思いと、私たちのできるだけシンプルにしたいという思いの摺り合わせに時間がかかったこと」と回答。また北原氏は、「エンジニアやクリエイターと世界観の共有をすることの難しさ」を挙げた。一方の白井氏は、「ボスキャラをどんな存在にするかに頭を悩ませた」と答えた。あまりに怖い存在にすると子どもが萎縮してしまうからだ。実際、でき上がったボスキャラは、見た目もかわいく、おもちゃを捕まえるのは単に友達が欲しかったからという設定にして、悪を象徴する存在にはしなかったという。
「ふしぎなかみひこうき」はサービスの提供を始めてまだ1カ月だが、効果は上々。「自社開発したデジタルコンテンツ『屋内砂浜 海の子』を上回る結果を出している」と内藤氏は語った。最後に梅田氏は、「デジタルエンターテイメントコンテンツの面白さのカギは、一つの遊びとしていかにデジタルとアナログをシームレスに融合させるかに尽きる。今日の講演がそれを考えるヒントになればうれしい」と語り、パネルディスカッションを締めた。