アスクルが運営するEC(電子商取引)サイト「LOHACO」が、「LINE」を活用した顧客サポートを強化している。まず、質問の選択肢を選びやすいように、LINEのメッセージのデザインを5月16日に変更。さらに6月からはカスタマーサポート向けの専用スタンプも制作して、LINE上の対話の中で利用し始める。顧客に親近感を抱いてもらうのが狙いだ。

「LINE」で顧客サポートをする「LOHACO」
「LINE」で顧客サポートをする「LOHACO」

 LOHACOはLINEによるカスタマーサポートに、質問に対して機械的に自動応対する「チャットbot」を採用している。例えば、送料や領収書の発行といったよくある質問であれば、チャットbotによる自動応対で完結する。こうしたチャットbotによる自動応対は、パソコンで先行して提供してきたチャットによる問い合わせ対応を、LINEに応用することで実現した。

 LOHACOがチャットbotによる自動応対に目を付けたのは、2014年のこと。当時は顧客からの問い合わせを受け付けるチャネルはメールのみ。電話による対応も提供していなかった。「メールでは、返信後に相手の反応を見て、さらに回答するといったやり取りが必要になる。1つの問い合わせ対応が完了するのに数日間を要することもあった」(カスタマーサービス&エンゲージメントの蛯原一朗部長)。そのため、早期に不明点を解決したい利用者には、メールだけでは利便性が低いという印象を持たれかねない。

チャットbotで問い合わせ数を削減

 よりスピーディーに疑問点を解決する上で、電話対応を導入する必要に迫られていた。ただし電話対応を始めると、当時のサポート体制では、すべての問い合わせに応えられない恐れがあった。そこで、利用者側で自主的に疑問点を解消してもらう自己完結率を高めることで、問い合わせ件数を減らす仕組みを作ることにした。

 LOHACOにとって最も減らしたい問い合わせは、自社サイト上の「よくある質問」のページに既にまとめてあるような質問だ。よくある質問の該当ページから回答を探せば自己完結できるような内容でも、探すことを手間と感じて問い合わせをしてくる層は一定数存在していた。既に答えが用意してある質問に関しては、チャットで会話しながら、チャットbotで機械的に対応できるようにした。

 導入はしたものの、当時はチャットによる問い合わせは一般的ではなく、すぐには利用が進まなかった。そこで、より親しみを持って問い合わせしてもらうために、「マナミさん」という女性のキャラクターを作った。これが奏功して、チャットbotによる問い合わせ対応の利用者は増加していった。下のグラフは棒グラフが「メールと電話を合算した問い合わせ数」と「マナミさん(チャットbot)への問い合わせ数」、折れ線グラフが「受注数に対する問い合わせ比率」を示している。マナミさんへの問い合わせ数が増加する一方、メールと電話の問い合わせ数は横ばいに抑えられているため、受注数に対する問い合わせ比率が減少傾向にあることが分かる。

LOHACOの「チャネル別の問い合わせ数」と「受注数に対する問い合わせ比率」の推移
LOHACOの「チャネル別の問い合わせ数」と「受注数に対する問い合わせ比率」の推移

 このようにマナミさんが利用者から支持を集めているのは、単に手軽に質問の回答結果を得られるからだけではない。ECサイトの利用とは無関係の日常会話に対しても、臨機応変に応対できることが利用者から受けている。

 例えば、「AIですか?」と尋ねれば「AIではなくマナミです」と答える。「好きな食べ物はなんですか?」という問いに対しては、「私はフルーツグラノーラが好きです。毎朝ヨーグルトと一緒に食べています」と返答する。これらは会話のログから寄せられた質問を分析し、新たに回答を追加することで、対応している。あたかも人と会話しているような体験を味わえることも、人気の理由だ。

スマホ対応が新たな課題に

 とはいえ、不安も残った。それはスマートフォンでの対応だ。スマホからの受注比率が高まるにつれて、スマホから気軽に問い合わせを受け付けられる場の設置がLOHACOでも課題として挙がった。また、LINEなどの利用に慣れた若年層は、電話やメールでの問い合わせを好まないと言われる。そのため、既存のカスタマーサポートの仕組みでは若年層のニーズを捉えきれていない可能性があった。

 この課題に対応するために開設したのが、LOHACOのLINE公式アカウントだ。チャットをスマホにも対応させることを検討したが、多くの利用者がいるLINE上に問い合わせ窓口を設けることが、得策と考えられた。

 アスクルは2016年11月21日にLINEに公式アカウントを開設。チャットbotを組み合わせることで、LINE上でもチャットと同様に自動応対を可能にしている。2017年5月16日には、問い合わせ内容の選択肢を選びやすくするため、縦に並べていた選択肢を、指で横にスワイプして選べるように変えた。これにより、無駄なスクロールを減らして、スムーズに選択肢を選べるようになった。

対応スピードの満足度調査結果
対応スピードの満足度調査結果
対応全般の満足度調査結果
対応全般の満足度調査結果

 また、より詳しい回答を求められた場合には、有人対応に切り替わる仕組みも導入した。有人対応に切り替わった後には、会話の中で大型の絵文字「スタンプ」を使用するなど、LINEならではの対話を心がけるようにしている。使用するスタンプは約20種類。「スタンプを送るとスタンプで返してくれるなど、より親近感を感じていただけている」(カスタマーサービス&エンゲージメントLOHACOエンゲージメントの角田華弥氏)。この結果、LINEでのカスタマーサポートに対する満足度調査では、「対応スピード」「対応全般」ともに、90%超が満足と回答している。

 さらにコミュニケーションを強化するため、冒頭で示した通り、6月からは自社で制作したマナミさんの専用スタンプの利用を始める。会話の相手であるマナミさんを起用したスタンプを使うことで、利用客により親しみを持ってもらい、満足度をさらに高めたい考えだ。

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