日経デジタルマーケティングは5月29日、東京・大崎の大崎ブライトコアホールで、「D3 WEEK2017プレセミナー『AI×IoT×デザインで変わる未来を見通す』」を開催した。D3とは「Digital×Data×Design」を意味する。デジタル・トランスフォーメーション時代には、この3つのDが企業の成長のカギを握る。今回はその講演の模様を3回にわたってレポートする。

 最初の講演に登壇したのは、DG Labアドバイザーの中村晃一氏と同CTOの宮島壮洋氏。DG Labとは、2016年7月にデジタルガレージ、カカクコム、クレディセゾンの3社が立ち上げた研究組織である。「ブロックチェーン」「VR(仮想現実)/AR(拡張現実)」「AI(人工知能)」「セキュリティー」「バイオテクノロジー」といった新しい技術を駆使して、参加各社の将来の事業基盤の構築を目的としている。

DG Labアドバイザー(AI)/ Idein代表取締役の中村晃一氏
DG Labアドバイザー(AI)/ Idein代表取締役の中村晃一氏

 中村氏はまず、デジタル広告市場を取り巻く状況を次の様に語る。「デジタル広告市場は今後最大の広告市場となる。北米では既に年間の売り上げでテレビ広告市場を上回っている。グローバルで見ても、今年中にデジタルがテレビを上回る。日本でもいずれデジタル広告市場がテレビ広告市場を上回ることは間違いない」。その背景にはインターネットやスマートフォン、SNSやメッセンジャーの普及などがある。

 では今後、デジタルマーケティングはどう進歩していくのか。中村氏は「AIやIoT(インターネット・オブ・シングス)の発展によって、マーケティングはよりリアルタイムでよりパーソナルなものになる」と言い切る。そしてその先の将来についても、「いずれはさまざまなサービス群を統括し、それらを消費者1人ひとりにとって最適化するようなパーソナルエンジンが登場するだろう」(中村氏)と予想した。

 続いて登壇した宮島氏は、DG Labで具体的に取り組んでいることを紹介した。「AI活用のフォーカスエリアは、カカクコムが提供するサービス『食べログ』。つまりAIを食べログに活用することで、よりパーソナルでリアルタイムなレコメンデーションを実現し、ユーザー体験を変えていくことを目指している」と語る。

DG Lab CTO(AI)/ カカクコム執行役員の宮島壮洋氏
DG Lab CTO(AI)/ カカクコム執行役員の宮島壮洋氏

 食べログは、ユーザーが書いた飲食店のレビューに基づき、店をランキングづけするもの。評判の良いお店を探すには最適なサービスだ。「食べログを利用することで、おいしい店に当たる確率は約8割に達する。だが、おいしさの好みは個人によっても変わるし、その個人がそのときにいる場所、時間によっても変わる。だからこそ、パーソナルでリアルタイムなレコメンデーションの実現が、食べログが将来にわたって活用されるためには不可欠だと考えた」と宮島氏は言う。

 DG Labが食べログで目指すパーソナルレコメンデーションとは、個人の味覚や趣向にあったお勧めや、過去履歴に基づくお勧めを指す。一方、リアルタイムレコメンデーションとは、時間帯や場所に応じたお勧めにとどまらず、店舗側からその界隈にいる人に向けて、リアルタイムに呼びかけられるものを指す。宮島氏は「発行したその時間帯だけ使えるリアルタイムクーポンなど、特別なサービスを提供することが可能になる」と説明する。

 とはいえこの両者を実現するには、課題がある。食べログの上ではオンライン予約の仕組みが十分に普及していないため、利用者のプロフィールデータや行動履歴データが取得できていないのだ。

サービスの実現はチャットbotで

 そこでDG Labでは、エリアとジャンルを入力すればAIがそれに合った飲食店を紹介するチャットbotをLINEの仕組みを応用して開発。食べログとAPI連携し、レストラン予約ができるように実装することでパーソナルレコメンデーションの実現を目指すという。ちなみにチャットbotは近日中にリリースされる予定。そして将来は、「チャットをコールセンターのコンシェルジェのようなものにしていきたい」と宮島氏は意気込む。

 これからのデジタルマーケティングは、よりパーソナルでリアルタイムな取り組みが求められるのは間違いない。宮島氏は最後に、「DG Labは、食べログのデータとユーザー基盤を使って実証実験を繰り返し、より快適なレコメンデーションの仕組みを作っていく」と語り、講演を締めた。

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