「25年間踏んばりましたが、60→70」
赤城乳業(埼玉県深谷市)が4月1~2日に放映した60秒のテレビCMは、大いに話題を呼んだ。アイスキャンディー「ガリガリ君」をこの4月より60円から70円に値上げすることを、社員総出で詫びたからだ。
45年前の高田渡のフォークソング「値上げ」をBGMに、井上秀樹会長以下、社員100人以上が本社玄関前に整列して頭を下げた。曲の歌詞は「値上げは全然考えぬ」から「なるべく避けたい」「認めたわけではない」「消極的である」を経て「やむを得ぬ」、そして「踏み切ろう」に至る。当時はインフレの世相を皮肉った曲だったが、今回聞いてみると、1991年以来60円の価格を据え置いてきたガリガリ君の値上げ告知が、苦渋の決断であったことが伝わってくる。
「そんなに長い間値上げしてなかったのか」「70円でも十分安い」など、CMを見た消費者の反応は総じて好意的だった。YouTubeで公開したCM動画も早々に再生回数が100万回を突破。値上げという、本来あまり触れたがらないネガティブな話題を“作品”に仕立てたことが奏功した。企業スローガンに「あそびましょ。」を掲げる同社ならではのセンスだ。
Costlier Ice Cream Bar Comes With an Apology to Japanese(棒アイス値上げで 日本国民に謝罪)――。CMは思わぬ方向にも波及した。5月19日、米ニューヨーク・タイムズ紙が1面でこのお詫びCMの一コマを掲載し、物価が伸び悩む中で値上げに二の足を踏む日本企業が多いことの象徴事例として紹介した。同社特有の広告センスを理解した上での言及かどうかは微妙だが、それほどインパクトのあるCMだった。
値上げCMの狙いについて、ガリガリ君の広告宣伝を指揮する赤城乳業営業本部マーケティング部部長の萩原史雄氏は、次のように語る。「25年前に50円から60円に値上げしたとき、ガリガリ君にお詫びをさせてしまったんです。でもガリガリ君が悪いわけじゃない。だから今回は社員総出で頭を下げようと考えました」。ユーモアを交えつつも真摯に詫びる姿は、消費者を動かした。値上げで販売本数の前年割れは不可避と想定していたが、4月は前年を約10%上回る売れ行きを記録した。
10年以上前からネット文脈を意識したプロモーションを展開
話題になるコト・モノを仕掛けてクチコミを誘発し、Webニュースメディアが記事化してYahoo!ニュースへ、情報番組などマスメディアも取り上げて拡散し、店頭で購入した客の投稿がシェアされ……。そんなバズサイクルの軌道をガリガリ君はしっかりものにしている。既に10年も前からネット文脈に沿った話題作りを意識してプロモーションを展開してきた。
2006年の冬シーズン、ガリガリ君の妹「ガリ子ちゃん」を予告なしにパッケージに登場させ、検索ワードランキング入り。2ちゃんねるでは「ガリ子は萌え系キャラか否か」論争が起きた。2012年に発売したコーンポタージュ味のガリガリ君は、Yahoo!トピックスに7回取り上げられるほど断続的な話題拡散に成功している。
興味深いのは、これだけソーシャルメディア上で話題になるブランドでありながら、ガリガリ君の公式アカウントは開設していないことだ。「ガリガリ君がツイートするような企画をよく提案いただくが、リアルな場にネタを用意して、それにTwitterなどで突っ込んでもらうスタイルがガリガリ君には合っている」(萩原氏)。
1981年に発売されたロングセラー商品のガリガリ君だが、他のロングセラーの多くが全盛期は遠い昔であるのに対し、その販売ピークは3年前の2013年。発売から19年後の2000年に年間販売本数1億本を突破し、7年後の2007年に2億本、3年後の2010年に3億本、2年後の2012年に4億本を突破し、翌2013年に4億7500万本を記録している。ネット文脈を意識した始めた2005~2006年から10年足らずで3倍増と加速度的に売り上げを伸ばしてきた。
発売35周年の今年、マイナス要因だったはずの値上げを“CM力”で跳ね返したことで、初の5億本の大台を目指す。猛暑の予想はプラス材料だ。ネットを騒がす二の矢、三の矢を打てるか。勝負の夏が始まる。