EC(電子商取引)サイト「Fanatics.com」を運営する米ファナティクスは、NFL(全米フットボール連盟)やMLB(米大リーグ)など世界300以上のスポーツチーム公認ユニフォームやグッズを販売するEC企業だ。ネット小売りとして全米で上位50社に入る同社は、サイト上の顧客の行動データなどからファンの心理を読み解き、パーソナライズしたメール配信などを実施。CVR(成約率)が前年比で約20%向上するという大きな成果を上げている。

NFLやMLBなどスポーツチーム公認のユニフォームやグッズを販売
NFLやMLBなどスポーツチーム公認のユニフォームやグッズを販売

 「スポーツファンは自分の好きなチームに対する忠誠心が強い。だからライバルチームの商品をオファーしたりすると、商品を購入しないどころか、サイトに戻ってきてくれなくなる」。マーケティング担当副社長のマット・スミス氏はメールのパーソナライズが重要な理由を、そんなエピソードで説明する。

 実際、同社の顧客にとって重要なのはサイトやメールを通じて、ひいきのチームの魅力的な商品を見つけたり、貴重な情報を得たりする“体験”が得られること。十分な体験価値を提供できていれば、販売している商品の価格が高くても購入してくれる。体験価値が十分でないと、多少値引きしても顧客の心を動かすことはできない。

 そこで米セールスフォース・ドットコムの「Marketing Cloud」を導入。Web上の行動データに基づいて、サイト上の「おすすめセクション」に、顧客ごとのお勧め商品を表示するなど、ファン心理に基づいたさまざまなパーソナライズ施策を実施した。例えば、顧客がカートに商品を入れたまま離脱してしまった場合は、その旨のリマインドをメールやSMS(ショートメッセージサービス)で送信している。その際には「いま、これが売れています」と、その顧客が興味を持つであろう関連商品も併せて掲載。「ついで買い」を促すことも可能になった。

3つのセグメントでコンテンツを出し分け

 一方、メールマーケティングでは、特定のAというチーム(例えば、サンフランシスコが本拠地のアメフトチーム「49ers」)の製品情報を配信する際に、1)Aが好きと選択している顧客、2)同じエリアにある(他の)スポーツチームや大学チームが好きと選択している顧客、3)そのエリアの住所を登録している顧客、と3つのセグメントに分けて配信を実施した。具体的には、1)にはAチームを中心としたコンテンツを、2)には好きなチームに関するコンテンツと、併せてAチームの情報を、3)にはAを含む幅広いチームの情報を、というようにコンテンツを出し分けた。「セグメントを適切に設定し、配信先が絞れていると、パフォーマンスもあがる」とスミス氏。実際、このカスタマイズによってメールの開封率はもちろん、CVRも前年比約20%改善したという。

 こうしたコンテンツの出し分けと同時に、もう1つの課題も解決した。同社のメールマーケティング担当者は5人。自動化したことで、年間40億件近くのメール配信が可能になり、キャンペーンの種類も2万7000にも増えた。メールマーケティングは同社の成長戦略の大きな柱であり、「人員を増やすことなく効果を上げることができた」とスミス氏は満足顔だ。

 Marketing Cloudのモバイル版の活用も始まった。同社にとって、試合が終わった直後や、選手が何らかの記録を達成した時のイベントは格好のビジネスチャンスである。そうした際に、スタッフが会社にいなくても、スタッフのスマートフォンから、「記録達成記念セールを始めます」といったメールの送信を簡単に設定できるようになった。ファナティックスはこうした取り組みで、さらなる成長を目指していく。

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