今や米Amazonの企業価値(時価総額)は、米国の他の主要流通企業を足し合わせたものよりも大きい(図1)。日本のセブン&アイ、ファーストリテイリング、三越伊勢丹など主要6社を足し合わせた額と比較しても、その3倍以上になっている。

図1 Amazonの企業価値(時価総額)は、米国の他の流通企業を合算したものより大きくなっている (2017年5月10日時点での時価総額を基に作成)
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図1 Amazonの企業価値(時価総額)は、米国の他の流通企業を合算したものより大きくなっている (2017年5月10日時点での時価総額を基に作成)

 Amazonは金融からクラウドサービスまで、さまざまな分野に進出し始めているが、本業と言えるEC(電子商取引)の物流については「ラスト・ワン・マイル」の領域で、老舗流通Wal-Martとの一騎打ちが始まっている。

 ラスト・ワン・マイルはECの事業コストの大半を占めると言われる。日本では、ヤマト運輸がアマゾンの当日配送サービスの受託から撤退すると報じられているが、この宅配というサービスをどう捉えるかで、流通の地図は大きく塗り替わる可能性がある。

 これまで百貨店やコンビニエンスストアは、オムニチャネルの旗を掲げて、購入のタッチポイントのデジタル化、オンライン化にばかり気を取られていた。しかしWal-MartとAmazonは違う。「流通のさせ方」というアナログな部分に着目し、その再定義を始めている。

モバイル起点で店舗を再定義

 EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)を掲げるWal-Martは2016年に、新興EC企業Jet.comを約3600億円で買収した。ジェフ・ベゾス氏に次ぐEC業界の寵児と言われるJet.com創業者のマーク・ローレ氏を昨年8月に取締役として“入閣”させ、旧態依然としたWal-Martのビジネス全体を急激に変革している。

 Wal-Martは既存店舗の顧客資産を起点としてECをツギハギの形で成長させてきたが、その限界を痛感したのだろう。店舗ビジネスとは無関係のローレ氏に自社のECを任せ、新興企業のM&A(合併・買収)でオンライン・ネイティブな顧客を拡大させている。

 実際、ローレ氏が取締役に就任してから半年で、すでにオンライン小売業を3社買収した。靴のShoeBuy(約77億円)、アウトドア用品のMoosejaw(約56億円)、そしてビンテージ女性アパレルのModclothである。

 ローレ氏はさらに、注文してから2日以内に配送料金なしで宅配するサービス「無料2日間配送」を開始したほか、Jet.comとWal-Martのバックヤード(フルフィルメントセンター)を統合して効率化を進めている。

 中でも注目すべきは「Buy Online, Pickup In Store」(BOPIS)と呼ぶ店頭ピックアップ(引き取り)サービスだ。受け取り方法としてBOPISを選ぶと、販売価格をさらにディスカウントするものだ。

 ECサイトで注文した商品を店舗でピックアップすること自体は、日本でもおなじみだろう。だが、そもそも市場最安値を標ぼうするWal-MartのECで購入した商品が、店頭ピックアップを選べば、さらに安くなるという施策のインパクトは小さくない。

 消費者からすれば、商品を店舗に取りに行くのは面倒だろう。だが、その「面倒のコスト」に見合う分だけディスカウントされるなら、店頭ピックアップを選ぶ客は増える。もちろんWal-Martの側は、商品を無料で配送するコストより、ディスカウントに伴うコストが低くなるよう設計しているはずで、当然だが、Wal-Martにとっても損をしない仕組みになっている。

 日本では、ネットスーパーなどで購入した商品の受け取り用に、スーパーの店頭や鉄道の駅などに専用ロッカーを設置するケースが増えている。この専用ロッカーの利用料を取るのではなく、逆に「利用したらディスカウントする」というサービスに変えたらどうか。こうしたサービスが広まれば、日本の物流・宅配の問題解決につながる可能性がある。

 流通企業にとっては、ECを利用する新たな顧客リストを獲得できる打って付けのキャンペーンになりうる。再配達の手間を減らすだけでなく、「わざわざ取りにいくメリット」を消費者に気づかせる企業が日本でも登場するのではないか。

Amazon Goはレジ不要のグロッサリーストア

 店舗を持たないAmazonは、現状ではこの施策を真似できないが、「オンラインの先に実店舗がある」という発想で、違う切り口の取り組みを進めている。それが「Project Como」であり、具体的にはレジを通らずに買い物ができるグロッサリーストア(食料品店)「Amazon Go」として、シアトルの自社オフィスビルの1階で実験中だ(図2)。

図2 Amazonが実験中のグロッサリーストア「「Amazon Go」。レジを通らずに買い物ができる
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図2 Amazonが実験中のグロッサリーストア「「Amazon Go」。レジを通らずに買い物ができる

 日本でもかなり話題になったAmazon Goが目指すところは、日本のコンビニや自販機の役割によく似ている。家庭の冷蔵庫の延長として、お菓子や飲料から新鮮な野菜や果物まで。いつでも好きなものを、好きなときに取り出せる(購入できる)世界をつくったのが、日本のコンビニや自販機であり、世界的に見てもユニークな存在である。このサービスをオンラインを起点に再構築しようとしているのがAmazon Goだ。Amazonがこの実験店をコンビニではなく、あえてグロッサリーストアと呼んでいる点に注意してほしい。

 グロッサリーという言葉は、食料品と日用雑貨とを含むが、食料品は依然として実店舗での売り上げ、受け取りが大半を占める。実際、グロッサリー分野におけるAmazonのシェアは、まだ1%程度に留まっているという報道もある。そして、その食料品の中でも特に扱いが難しいのが生鮮食料品だ。鮮度が重要で、モノによっては冷蔵が必要だったりする、とてもデリケートな商品である。

 そんな生鮮食料品についてもAmazonは「Amazon Fresh」という名前で既にサービスを展開しているが、Amazon Goを含めて、同社が食料品ビジネスにフォーカスしているのは、食料品は「毎日のようにリピートしてくれる(可能性が高い)商品」だからである。

 本や雑貨などばかりでなく、食料品でさえも購入するのはAmazonからとなれば、Amazonは消費者の懐により深く入り込むことになる。そうなると、食料品の購入を最大の来店動機とすると同時に、よりマージンの高い商品をついで買いしてもらう「釣り餌」としても活用していた既存流通は、大きな痛手を被ることになろう。

 ちなみに日本でも実験と実用が進む「レジロボ」のような自動レジやセルフレジのような試みは、人の手による精算プロセスをロボットに置き換えるもので、省力化が大きな狙いになっている。「商品流通のさせ方」を変革しようとして、AmazonやWal-Martが進めているものとは、かなり次元が異なる取り込みだと言える。

 このように「宅配」を常識として成長を続けてきたECは今、大きな転換点を迎えている。Wal-Martが全米4700店舗という規模を生かして、ラスト・ワン・マイル競争の勝者となるのか。あるいはAmazonが、Amazon Goをその目論見通りに2000店舗まで増やしていくのか。そして、海の向こうの潮目の変化を感じ取り、日本の中で、先手を打つのはどこなのか。競争の行方は、まだ混沌としている。