参加型の設計を強く意識

 もう1つ、この反転攻勢の時期からマクドナルドが強く意識し始めたのが、SNSを使ったキャンペーンを「参加型の設計」とすることだった。

 以前からマクドナルドはキャンペーンにSNSを利用はしていたが、公式アカウントが新商品を紹介した投稿をリツイートするとプレゼントが当たるといった、ありがちなパターンが多かった。それがこのおてごろマックのキャンペーンから、商品名にニックネームを採用し、突っ込みが入る余地をあらかじめ設けるなど、参加を意識するようになった。

 この傾向はその後も続く。明けて2016年の最初の大型企画は、「名前募集バーガー」だった。北海道産の食材を使った新商品「北海道産ほくほくポテトとチェダーチーズに焦がし醤油風味の特製オニオンソースが効いたジューシービーフバーガー(仮称)」を期間限定で販売するに当たり、販売と同時に「名前募集キャンペーン」を実施。グランプリに選ばれた名前は実際の正式商品名となり、受賞者にはバーガー10年分に相当する賞金をプレゼントするという内容だ。

 2週間の募集期間で、501万6926件もの応募が寄せられ、審査の結果、「北のいいとこ牛(ぎゅ)っとバーガー」がグランプリに決定。翌日から正式商品名として販売された。

 当選者は1人という確率の低いキャンペーンにこれほど多くの応募が集まったのは、賞金より、命名を消費者に任せてしまうことへの驚きや、最終的にどんな名前になるかという興味から、自分も一枚かんでみようという参加意欲を引き出せたからだろう。そして自分の命名が採用されなくても、企画に関与した商品は食べておきたくなるもの。命名から購入へスムーズにつながっている点で、参加型を意識した企画の成功例と言える。

昨年半ばからの攻勢の段階の施策:他社の成功事例を取り込む

 その後もSNSを使って参加することを意識した企画が続くが、マクドナルドはもう1つ施策に工夫を施した。それは、まったく新規のアイデアではないものの、他社の成功事例をうまくマクドナルド流にアレンジした企画に落とし込むことで、SNSでファンに盛り上げてもらう参加型の仕組みを作るようにしたことだ。

 早くも定番化した「マックの裏メニュー」は、ベーコンやチーズなどの具材を3点まで自由に組み合わせて定番バーガーにトッピングできる企画だ。昨年は具材3点で285通り、今年は具材を4点用意し、朝メニューも含めて583通りのカスタム・メード・バーガーを楽しめる。人気ラーメン店「ラーメン二郎」の「野菜マシマシ」や、吉野家の「つゆだく」など、正式なメニュー表や食券にはないオーダー方法を参考に採用した格好だ。

 トッピングで山盛りのラーメンの写真が、店側が頼まずともSNSに上がるように、マックの裏メニューでも、自分好みにカスタマイズしたバーガーの写真がアップされる期待がある。ニュースサイトでは、フィレオフィッシュにベーコン3枚など、合いそうにない組み合わせをあえて試したレポート記事が早速公開されており、狙いは当たっているようだ。

公約宣言でSNS投票意欲を向上

 今年1月に開催したマクドナルド総選挙は、他社でも過去の人気商品を復活させる企画として実施しているが、出馬する各バーガーが勝った際の公約を宣言するところが、投票意欲をかき立てた。購入商品のパッケージのQ Rコードからの投票と、Web投票で加算ポイントが異なり、購入客からの票を手厚くした点も参加のモチベーションを高めるうえで重要な要素だ。「トリプルチーズバーガー」になることを公約に掲げた「ダブルチーズバーガー」が1位になり、投票者の多くはトリプルチーズバーガーを試しに行っただろう。

 季節の人気定番「チキンタツタ」の発売に当たっては、ライバルとしてタルタルソースを挟んだ「チキンタルタ」を投入した。

 「きのこの山」に対する「たけのこの里」、AKBグループ対坂道グループなど、公式ライバルの存在は、好みが割れることからファンが熱くなって投稿が盛り上がりやすい。

マクドナルド公式アプリ月間利用者数推移
マクドナルド公式アプリ月間利用者数推移

 そしてこうした各種キャンペーンの存在を知るきっかけとなるオウンドメディアが、マクドナルド公式アプリだ。店舗に立ち寄る際、おトクなクーポンを探そうとアプリを立ち上げたときに、実施中の企画が目に留まる。アプリのダウンロード数は今春3300万件を超え、ニールセンデジタル調べで月間利用者数は1700万人に上る。

「魅力的な会社」の3要素
「魅力的な会社」の3要素

 電通PRが主催する企業広報研究所の調査では、消費者にとって魅力的な企業の条件として「共創文化がある会社」を一番に挙げている。KODOアプリなどでお客の声を聞き、参加型キャンペーンや写真をアップしたくなるカスタム商品企画で楽しみを広げることに取り組むマクドナルドは、この条件を満たす企業になったと言えるのではないか。3段階を踏んで復活と再成長を果たしたマクドナルド。そこでSNSやアプリが果たした功績は大きい。