ご意見アプリ「KODO」導入

 気づいたことや要望を来店客が気軽に伝えられる店舗評価・ご意見投稿アプリ「KODO」の導入も、ソフト面の改善の一つだ。

公式アンケートアプリ「KODO」。評価や要望を各店舗の判断で改善に生かす
公式アンケートアプリ「KODO」。評価や要望を各店舗の判断で改善に生かす

 KODOアプリでは、ユーザーが来店店舗や日時を入力するとフリーコメント欄が現れ、要望や感想を投稿できる。続いて5段階の総合満足度、最高点でない場合は何が課題だったかを選択肢から選ぶ。さらに、サービスのスピーディーさや従業員対応、店舗の清潔さ、おいしさ、メニュー、価格について満足度を採点する。回答した顧客にはポテトSまたはドリンクSの無料クーポンがアプリに配信される。

 マクドナルド側は店舗単位で回答内容を確認でき、可能な改善はすぐさま店舗の裁量で本社を介さずに実行できる。例えば「BGMの音量が大きい」という指摘があった場合、ボリュームを絞るといった具合だ。また、「『荷物を置くカゴがほしい』というご要望に対し、スペースが許す店舗では実際に用意した例などがある」(同社コミュニケーション本部PR部部長の蟹谷賢次氏)という。

 また、店内カウンター席や壁面の広告スペースなど、いたるところでKODOの告知をしているため、来店客に対し、傾聴の意欲を見える化しているとも言える。

既存店の改装と組織の新設

 ハード面では、不祥事以前から計画があった既存店の店舗改装がそのまま、マクドナルドが変わったという印象を与える効果を発揮した。2015~2016年で1000店舗弱を改装し、今期も350~400店舗の改装を予定している。

 組織面の改革は伝え方が難しいが、外部の識者を招いて「お客様対応プロセス・タスクフォース」を設置したり、お客様サービス室を副社長直轄の組織にしたことは、顧客重視の姿勢を組織の体制として消費者に見せたことになるだろう。

 また、カサノバ社長が全国47都道府県を巡回して母親の声を聞くタウンミーティングを約1年かけて実施したことは、ソフト面の改善であると同時に、トップ自ら改革の先頭に立つ組織改革の在り方を示したとも言える。実際、このミーティングをきっかけにして、各商品の原産国・加工国情報やアレルギー情報を一元化表示するという企業サイトの改善や、商品情報にアクセスできるQRコードを商品パッケージに目立つように配置する改良などが、実現している。

イメージが転換する段階の施策:新商品を武器に反転攻勢

 こうした信頼回復の初期の局面における地道な改善の取り組みは、即効性には欠けるものの、ネガティブなイメージをポジティブなイメージに変え、悪化したマクドナルドのイメージをじわじわと解消していった。

ネガティブツイート数の推移(2017年は1~4月分。点線は3倍した値)
ネガティブツイート数の推移(2017年は1~4月分。点線は3倍した値)

 デジタルマーケティング支援事業のトライバルメディアハウス(東京都中央区)でコンサルティング営業部に属する井福裕之氏が、マクドナルドに関するTwitter投稿をクチコミ分析ツール「ブームリサーチ」を利用して分析したところ、「ネガティブな投稿件数が2015年の約105万6000件から、2016年は約48万件、2017年1~4月は約11万7000件と減少した」という。この数字には、消費者のマクドナルドに対するマインドの変化が如実に表れていると言えそうだ。

 ネガティブ投稿が減ってポジティブ投稿が増える転換点、すなわち消費者がマクドナルドに抱くイメージが変わりつつある転機として、井福氏は2015年10月27日に注目する。

 この日、突如として「#マクドナルドを復活させる方法」というハッシュタグが人気になり、Twitterユーザーがそのためのアイデアを出し合う展開になった。ツイート件数は通常の約3倍に上り、年間で見ても、同年1月に異物混入が発覚して以降、最もツイート件数が多い日となった。

 ツイートの内容を見ると、「朝マックをレギュラーメニューにする」「ベーコンポテトパイをレギュラーに戻す」といったアイデアや、「モスバーガーを売る」など笑いを取る大喜利のようなやりとりが繰り広げられていた。中には「昔の容器に戻すってどう?」とビッグマックの発砲スチロールケースの写真を添えた投稿もあり、これが約2000件超リツイートされていた。

 井福氏が指摘する通り、確かに2015年10月下旬は、マクドナルドに対する消費者マインドの転換点だった。それまでは、マクドナルドの話題になると不祥事の話を蒸し返すような投稿も目についた。だがこの10~11月、東京・赤坂見附店をはじめ長年営業してきた都市部の旗艦店が軒並み閉店することが報じられると、ショックを隠せない利用客の投稿が相次いだ。そんな時期とちょうど重なるのだ。

 偶然か必然か、マクドナルドはこの転換点で、SNSを味方に反転攻勢をかける新商品を用意していた。200円の「おてごろマック」新バーガー3種類、「エグチ(エッグチーズバーガー)」「バベポ(バーベキューポークバーガー)」「ハムタス(ハムレタスバーガー)」である。

「おてごろマック」新バーガー30万人大規模試食キャンペーンの告知。SNS上のプロフィールなら「エグチ」さんになれる
「おてごろマック」新バーガー30万人大規模試食キャンペーンの告知。SNS上のプロフィールなら「エグチ」さんになれる

 現在は、エグチはそのまま。他2品は「チキチー(チキンチーズバーガー)」と「ヤッキー(しょうが焼きバーガー)」に入れ替わっている。店員が厨房スタッフにオーダーを告げる際の略語のような言葉を、ニックネームとして打ち出すのは初めてのこと。「○○○○○○○バーガー」より3~4文字の愛称の方が、ツイートするにも好都合だ。

 発売前日の10月25日には、午後の3時間限定で「おてごろマック無料お試しDAY」を開催。ニックネームと同じ名前の来店客(とその同伴者)は、3商品のいずれか1個を無料でお試しできるようにした。全国の江口さんが歓喜の声を上げるのと同時に、「バベポ、ハムタスなんて名前、外国人でもいるか?」という突っ込みが入る余地をあらかじめ用意したキャンペーンだった。

 注文時に名前を確認できるものとして、免許証や学生証のほか各種SNSのプロフィール画面を有効にしたため、アカウント名を一時的にエグチ、バベポ、ハムタスに変える人が続出し、フォロワーがそれに気づいて新商品やキャンペーンの存在を知るという波及効果ももたらした。

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