最後に、不寛容と称される社会環境であっても愛される企業の条件について考えてみたい。電通パブリックリレーションズ コーポレートコミュニケーション戦略室室長の阪井完二氏は、「魅力的な商品がある」「企業として信頼できる」ことは大前提として、3番目に「人的な魅力の高さ」を挙げる。これは経営トップから現場従業員まですべてに関係するものだ。
まず経営トップについて。米PRコンサルティング大手のウェーバー・シャンドウィックが「Fortune500」の上位50社のCEOを対象に隔年で実施する「ソーシャルCEO調査」によると、企業サイトやYouTubeチャンネルに写真や動画を掲載したり、ソーシャルメディアを自ら運用する“ソーシャルCEO”の割合は増え続け、2015年5月公開の第3回では80%に達している。好業績企業は、CEOがオンライン露出に積極的ということだ。

次に、次世代リーダークラス。名物社員、業界をリードするご意見番といった存在だ。彼ら彼女らはネットワークが広くファンも多い。そしてSNSもフル活用している。面白かったと紹介した本がすぐに品切れになるなど、企業の公式アカウントより影響力を持っていたりするのがこの層だ。こうした人材を社内に閉じ込めず、アクティブに活動してもらうことが、個人と企業の双方のブランディング面でプラスになる。
最後に各現場の従業員。これは自ら発信するのではなく、顧客や関係者から発信されるような仕事をするという意味だ。例えば腕利きのカフェラテアート職人なら、その出来映えに感動した来店客がInstagramに写真を投稿すると、そのカフェ店は一躍「行ってみたいお店」になる。

今年1月の大学入試センター試験当日、JR郡山駅の黒板に白いチョークで書かれた「受験生のみなさまへ」と題したメッセージが掲示された。駅員の自分も数年前は同じ受験生であったこと、当時抱いていた夢とは違う道に進んだが道は一つではないことなどを綴った板書は、駅の利用客が撮った写真がTwitterで3000件以上リツイートされたことで、ハフィントンポストなどのニュースメディアにも取り上げられ、さらに広く知られることになった。
2014年2月、記録的な大雪の影響で中央高速道で立ち往生していたドライバーに、山崎製パンのトラック運転手が機転を利かせてパンを無償配布したことが、“神対応”として話題になった。こちらも現地からのTwitter投稿によって拡散した。
ネガティブな話題に負けないくらい、美談もまた拡散力が強いトピックだ。狙った美談仕立てはかえって反感を買うが、現場従業員の誠実で謙虚な対応は、企業イメージを好転させる力がある。不寛容をただ嘆くのではなく、ネットの善意が味方するような仕事をすることが、“愛され企業”と炎上予防の双方につながっていくはずだ。