古びた団地が次々と画面に現れ、そのどれもが点滅するイルミネーションで格好よく彩られる。そしてバックには軽快なエレキミュージックがテンポよく流れ続ける──。
独立行政法人都市再生機構(UR)の西日本支社が制作した、こんな風変わりなネット動画広告による企業イメージ向上の試みが、想定以上の成果を上げている。

2月19日からYouTubeにインストリーム型のネット動画広告を配信したところ、同社がKPI(重要業績評価指標)に定めていた「完全視聴率」(再生された動画を視聴者が最後まで視聴する割合)が、配信後4日間の平均で23%を超えた。「ネット動画広告の完全視聴率は10%前後と言われるなか、大成功」とUR西日本支社大阪エリア経営部企画チームの岩田雅人チームリーダーは胸を張る。
完全視聴率が高かったのは、ターゲティング広告の手法を用いただけでなく、「動画広告のクリエイティブそのものも、データに基づき、ターゲット層が興味を示しそうな内容にしたから」(大阪エリア経営部企画チームの中張彩子氏)だ。
今回のネット動画広告で狙ったのは、UR西日本支社が大阪府下に抱える204物件・10万5000戸というURブランドの賃貸住宅を、住宅選びの決定権を持つとされる女性、それも将来を見込んで25~34歳までの未婚女性に絞って、アピールすることだった。
2万の動画に付けたタグを活用
そこでURは、動画制作支援会社のViibar(東京都渋谷区)にネット動画広告の制作を依頼した。データによれば、ターゲット層はテレビよりもネット動画に触れる時間が長い。それにViibarはデータを活用した動画の制作の経験があった。
Viibarは、ネット動画に対して、「お笑い風」「ミュージックビデオ風」など7~8種類のタグの中から内容にふさわしいタグを1~2つ選んで付与し、動画を分類した独自データを持つ。タグを付与した動画は、URから依頼のあった昨年末時点で約2万件。このデータに、趣味や利用するソーシャルメディア、好みのブランドなどを性別・年代別でアンケート調査した別のデータなどを合わせて、URが狙う25~34歳の未婚女性が興味を示しそうな内容を分析した。
その結果、「ミュージックビデオをよく見る」「音楽鑑賞や自宅での映画鑑賞を好む」「MUJIが好き」といった要素が抽出された。これらの要素を、登録された約3000人の動画クリエーターに提示し、出てきた企画案の中から有望な案をURに見せ、担当者の意見を入れながらViibarのプロデューサーがクリエーターと共に内容を詰め、ミュージックビデオ風の内容に仕上げたのだ。
「今回の試みで、25~34歳の未婚女性層に“UR賃貸住宅”の存在が浸透し始めた。これからも継続して訴え続けることが重要」(中張氏)。今後は、この動画広告を、大阪府下に展開するURの賃貸物件を紹介する店頭で流したり、希望があれば西日本以外のURに貸し出して活用してもらうことを検討中。併せて、ネット動画広告を使った若い女性層向けプロモーションを、今後も展開していく考えだ。