資生堂がマーケティングデータのワンソース化を進めている。デジタルマーケティングのデータを一元的に格納するため、トレジャーデータ(東京都千代田区)のクラウド型プライベートDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を4月に導入した。この新たなDMPに、資生堂社内のデータにとどまらず、第三者の持つオーディエンスデータなど、デジタルマーケティングに関わるすべてのデータを統合的に蓄積する。
資生堂がデータの活用で目指すのは、顧客一人ひとりに最適なコミュニケーションをするワン・トゥ・ワンマーケティングだ。その実現のために、昨年からマーケティングオートメーション(MA)ツールやDMPなどを相次いで導入してきた。
LINEでシナリオ型マーケティング
例えば、MAツールの活用では、プラットフォームをまたいだシナリオ型の配信に取り組んだ。メールの開封の有無といった分岐条件ごとに、次に実施する施策を設定しておくことで、自動的に実行される。通常、自社で発行するメールを中心に実施するケースが多いが、資生堂は無料通話・メールアプリ「LINE」上に開設している、自社サイト「ワタシプラス」のLINE公式アカウントも含めて、シナリオ型の配信を実現している。
ワタシプラスのLINE公式アカウントには、2000万人超の「友だち」が登録しており、情報を届けられる規模は非常に大きい。ただ、従来は登録者の情報に合わせたメールの出し分けはできず、全員に同じ内容を一斉配信していた。「開封率やクリック率はメールに比べると非常に高い。より有効なコミュニケーションをできないか検討していた」と資生堂ジャパンのダイレクトマーケティング部Web推進室長の徳丸健太郎氏は言う。LINEでもワン・トゥ・ワンマーケティングを実現する。導入したのが「LINEビジネスコネクト」だ。
LINEビジネスコネクトは、企業の持つシステムとLINE公式アカウントを接続するもの。資生堂はこのLINEビジネスコネクトを活用して、顧客データベースとLINE公式アカウントを接続。これによりLINE公式アカウントに登録した友だちに対し、資生堂の持つ顧客データを用いてターゲットを設定して、メールを出し分けられるようにした。

とはいえ、単にシステムをつないだだけでは、顧客ごとのメール配信はできない。まずLINEの公式アカウントとワタシプラスのIDを顧客自身に接続(ひも付け)してもらう必要がある。そこで、昨年のLINEビジネスコネクト導入後は、まずIDを接続する会員の増加策に注力。IDを接続した会員に抽選でグッズなどが当たるプレゼントキャンペーンなどを実施して接続を促した。現在は約15万人がLINEのアカウントとワタシプラスのIDを接続しているという。
今年に入ってID接続が一定数に達した段階で、ID接続している会員には、その時々に応じて、メールを配信するプラットフォームを変えるといった施策に取り組み始めた。例えば、期限付きクーポンの利用期限を知らせるメールもその1つ。期限当日のアラートを、ID接続している会員にはLINEで配信し、それ以外の会員にはメールで知らせている。
こうした出し分けだけでも、「LINEのコンバージョン率(CVR)は3倍も高い。メールと比較してLINEの方が日常生活に入り込んでいる」と徳丸氏は見る。それゆえ、こうした緊急性の高い内容の場合には、LINEで送った方が、すぐに目を通してもらえる。それが高CVRという成果につながっていると推測できる。
また、LINE上で商品サンプルのプレゼントキャンペーンを告知して申し込みを受け付け、当選者に後日、LINE経由で本商品を案内するといった、LINEで完結する2ステップマーケティングも実施している。
データがツールごとに分散
一方、DMPでは、「Yahoo!DMP」をこれまで活用し、ワタシプラスの顧客データと「Yahoo!JAPAN」のデータを用いた広告配信などに取り組んできた。データを連携することで、広告の対象となった商品の購買履歴を持つ消費者は、広告配信の対象から外すなどして、新規顧客獲得の効率を高めるといった施策を実施し、効果を上げてきた。
ただ、データを活用したマーケティングを進めるにつれ、徐々に新たな課題が浮き彫りになっている。「個々の施策では成果が出ているものの、各サービスが個別にデータを持つため、データの統合的な管理が難しくなってきた」(徳丸氏)のだ。
それぞれのツールでは最適なコミュニケーションを実現できているが、データが分散したことで、横断的なマーケティング施策は実施しづらくなってしまった。もちろん、まったく連携ができていなかったわけではない。一部のサービスの間では、データを連携できていた。だが、すべてを統合するのは難しかった。なぜなら、既に導入していたDMPは、蓄積できるデータの量に限りがあったからだ。資生堂ジャパンダイレクトマーケティング部Web推進室の吉本健二氏は、「POS(販売時点情報管理)システムなどのデータも含めると、量が多すぎて格納しきれなかった」と説明する。

そこで、4月に新たに導入したのがトレジャーデータのクラウド型プライベートDMP「TREASURE DMP」だ。トレジャーデータは、デジタルマーケティングに関連するデータに限らず、企業の持つビッグデータをクラウド上で集計・管理するサービスを提供していた。そのサービスをよりデジタルマーケティングに特化させたのが、TREASURE DMPだ。それゆえ、大量のデータを管理するのに向いている。
資生堂はTREASURE DMPに、MAツールで配信したメールへの反応や広告配信のデータ、POSデータ、ワタシプラスの購買データ、サイトのアクセス解析データなど、あらゆるデータを蓄積する。さらに、第三者の持つオーディエンスデータも併せて蓄える。こうして、どのような情報に関心を持っているのかといった顧客のライフスタイルを分析して、マーケティングに落としこむことを目指す。
また、従来はワタシプラスを中心としたダイレクトマーケティング領域で、主にデータを活用してきた。今後は、ブランド担当部門とのデータ連携を強める。例えば、ブランド担当部門での宣伝施策と、ダイレクトマーケティングの販促施策は統合できていない。ブランドごとに異なる広告代理店を使っていることもあり、これまでは統合が難しかった。そこで、データの蓄積や運用も含めて、ルールを設定する。そのルールに従う形で、双方で宣伝やマーケティング施策を行うように変え、ブランディングとダイレクトマーケティングの統合を目指す。