「伸び率が高く、将来的には売上高の2割を占めるまで拡大する可能性がある」。高速バス会社WILLER(大阪市北区)の神徳昭裕eコマースDiv.マネージャーは、外国人観光客による売り上げに対する期待をそう口にする。

 現状では、まだ売上高の数%程度だが、2020年の東京オリンピックに向けたインバウンド需要の高まりや海外展開によって成長の余地が大きいと判断。運用型広告を活用した、外国人観光客を対象としたマーケティング施策の強化を進めている。

 WILLERは自社で広告運用部隊を持ち、代理店などを使わずに広告を運用している。ただ、海外向けは、「日本向けに制作した広告クリエイティブを、ついでに翻訳して配信」(eコマースDiv.の若山友里恵氏)している程度だった。しかしインバウンド需要が高い伸びを示しているため、昨年から専用の広告クリエイティブの制作や、現地で利用の多い広告媒体の開拓に乗り出した。その成果が出始めている。

 今年、外国人観光客向けを対象とした山梨・富士吉田の新倉富士浅間神社や富士芝桜まつりを1日で巡るバスツアーの売り上げは、まだ販売中にもかかわらず既に前年比で約2倍に達した。背景にあるのが、有望な国への広告予算の集中投下。今回のキャンペーンで注力したのはタイ向けのマーケティングだ。

タイのサイトのクチコミで商品開発

 タイを選んだ理由は昨年、「当社を利用する国別の伸び率で、1位になった」(神徳氏)ことが大きい。母数は韓国などに劣るが伸び率が高く、有望株として注力することに決めた。

 また、タイの人気オンライン掲示板サイト「Pantip(パンティップ)」上の投稿を調べたところ、タイ人の関心が特に高い日本の観光地を見つけ出すためのヒントが隠されていた。

WILLERが制作した広告クリエイティブの変遷
WILLERが制作した広告クリエイティブの変遷

 キーワードは「芝桜」だ。芝桜は桜と似た花を咲かせる多年草。4~5月に一面を埋め尽くすように開花する。タイではこの芝桜の人気が高く「日本名のシバザクラで通じるほど知られている。パンティップ上でも芝桜に関するレビューが数多く投稿されていた」(若山氏)。また、富士山と花の両方を楽しみたいというニーズも読み取れたことから、ツアーに新倉富士浅間神社を組み込んだ。

 こうして現地の生の声を参考に商品を開発しながら、広告クリエイティブを制作した。従来の日本向けクリエイティブの流用ではなく、富士山と花の両方を楽しめることを強く訴求する写真の構図を採用。広告はパンティップにも配信した。「以前からパンティップに出稿して効果を検証したいと考えていた。タイと相性の良い芝桜のツアーの広告だったため活用した。掲載途中だが、かなり高い効果が出ている」(若山氏)。

 WILLERはデジタルを活用し、日本にいながら他国のニーズを精緻に把握して商品を開発。さらに現地の有望媒体に最適化された広告クリエイティブを配信し、大きな成果を上げている。

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