パナソニックは年内に、CRM(顧客関係管理)サイト「CLUB Panasonic」上で展開しているポイントモールで、広告事業を始める。2016年4~9月期に料金体系などのメディアシートを作り、2016年10~2017年3月期に広告代理店やメディアレップを通じて販売を始める。広告商品は、CLUB Panasonicの会員を、ポイントモール経由で広告主のコンテンツや店舗などへ誘導するものだ。
CLUB Panasonicの会員数は、820万人に上る。月間ページビュー(PV)は既に2億2000万に達しており、企業サイトとしては非常に大きなトラフィックを持つ。会員層を見ると、パソコンからの利用者は40代以上が59%を占める。また、会員は所有するパナソニック製品の製造番号などを愛用者登録することで、限定コンテンツを楽しめたり、サポート情報が手に入ったりする。こうした登録データから、大型テレビの所有者といった、高所得者層が多数登録していることも分かっているという。
このような特徴から、「自動車メーカーなど、富裕層にアプローチしたい企業から、広告を出稿したいという要望をもらうことが増えてきた」(クラブパナソニック運営部の中村愼一部長)。そこで、本格的に広告事業の展開を決めた。富裕層を囲い込んでいる広告媒体は希少なため、広告出稿の大きな需要があると見込む。
活性化目指しポイントモール
ポイントモールでの広告事業は、CLUB Panasonicにとって、新たな収益を生む新規事業として期待が高い。だが、広告事業の展開も、目的はあくまで会員の活性化だ。「自社のマーケティング原資ではポイントの発行にも限界がある。広告主を募ることで収益を得て、それを基にさらにポイント流通量を増やし、会員の活性化につなげる」(中村氏)。
ポイントモールは、2015年2月に開設した。モールには、連携するさまざまなEC(電子商取引)サイトや、保険などの一括見積もりといった他社サービスに誘導するリンクが掲載されている。このモール経由で各サービスを利用したり、モール上のゲームで遊んだりすることで、ポイント「CLUB Panasonicコイン」が貯まる。

例えば、モール経由でニッセンのECサイト「ニッセンオンライン」で商品を購入すると、購入金額の3%がコインとして還元される。また、三井住友カードのクレジットカード「三井住友VISAカード」の新規発行で2100コインを得られる、など140社のサービスに誘導できるようになっている。ためたコインは、電子マネーの「楽天Edy」や「nanaco」、全日本空輸の「マイル」などに交換して利用できる。
従来もCLUB Panasonicではポイントを提供していたが、あくまでCLUB Panasonic上でのキャンペーン応募に利用するもので、用途が限定的だった。通貨に近い形で利用できるCLUB Panasonicコインを提供し始めたところ、サイトの利用が大幅に増加した。「モールは非常に好評で、多くの会員を誘導しているため、連携している企業からのポイント還元率が高まっている。よりお得に利用できるため、一層利用が促進されるという好循環を生み出している」(中村氏)。
そこで、さらなる活性化を目指して、自動車や化粧品メーカーなどからも広告出稿を受け入れることにした。具体的には、モール経由のディーラーでの試乗の申し込みや、新商品のプロモーション動画の閲覧など、広告主が実現したい目的を達成した会員にコインを付与するといった形で、活用できるようにする。
こうした広告商品の提供によって誘導先の幅が広がることは、パナソニックにとって、会員活性化以外のメリットを得られる可能性もある。それがデータだ。
CLUB Panasonicの会員IDは、パナソニックが運営する写真共有サイトや、健康管理サービスといった、14サイトの共通IDとなっている。また、各製品のプレゼントキャンペーンなどを実施する、キャンペーンの共通基盤としても利用している。これにより、サービスの利用やパナソニックのサイトのアクセスデータ、キャンペーン応募、そして所有する製品といった、顧客に関わるあらゆるデータをDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)に蓄積。データを活用したマーケティングを実施して、成功を積み重ねている。
データのマーケティング活用を加速
例えば、会員のデータから、50インチサイズのテレビを所有している人は住んでいる部屋が広いと推測して、マッサージチェアをメールで案内する。アクセスデータから、前日に液晶テレビ「ビエラ」のサイトを閲覧した人を対象に、同製品の特集メールを配信する。こういったメールは「クリック率が数十パーセントに上ることもある」(中村氏)。
また、製品のレンタルキャンペーンと連動したマーケティング施策も効果を上げている。パナソニックは昨年、持ち運びできるテレビ「プライベート・ビエラ」を当選者が2週間レンタルできるキャンペーンを実施。約3万3000人の応募があった。実際に貸し出したのは2791人だが、応募者はプライベート・ビエラへの関心が高い会員だ。そこで、応募者限定でプライベート・ビエラのキャッシュバックキャンペーンを告知したところ、「かなりの数が購入に結びついた」と中村氏は言う。特に、レンタルの体験者は未体験者に比べて、購入率が5倍高かった。こうした成果を受けて、キャンペーンは継続的に実施している。
リアルのイベントへの誘導にも効果的だ。パナソニックは昨年10月に、さまざまなパナソニック製品を体験できる会員限定イベント「CLUB Panasonic ファンフェスタ」を実施した。集客を狙うのは、30~40代の優良顧客だ。そこで、所有する製品などの会員データから、首都圏に住むターゲット層には郵送のDMで告知、それ以外の層にはメールで告知した。その結果、3505人が来場した。データから来場者はすべて把握できているため、来場者限定のキャッシュバックキャンペーンを実施するなどして、購買に結びつけた。こうした施策もあいまって、会員がパナソニック製品に費やす年間の金額は、非会員と比較して4万7000円も高いという調査結果も出ているという。

さらに、会員を増やし、データ活用も強化するため、3月にはCLUB Panasonicのスマートフォン向けアプリの提供も始めた。これにより、製品の愛用者登録を一気に簡略化できるようにする。4月以降、一部の製品のパッケージには製造番号などのデータを含むQRコードを印刷する。会員は、アプリのカメラ機能でQRコードを撮影するだけで、愛用者登録が完了できるようになる。
ただ、これらはあくまでパナソニック製品に関連するデータに過ぎない。広告商品の展開によって、今後はさまざまな業種の広告主から出稿が増え、これまでには取れなかったデータも取得できるようになる。そこから、会員のライフスタイルまで分析できる可能性もある。とはいえ、「あまりデータを使いすぎると、パーソナライズ化が過度になり不安がられる恐れもある」(中村氏)ことから、慎重にデータ活用を検討していく考えだ。