日経デジタルマーケティングは4月18日、読者無料セミナー「Digital Marketing Conference 2016 Spring」を開催した。その事例講演の模様をレポートする。
18歳人口の減少によって、多くの大学が入試志願者数を減らしている。近畿大学は、日本一の入試志願者数を誇るだけでなく、近年志願者数を大きく増やしたことでも注目を集めている。その背後には、戦略的なPR活動とメディア戦略があった。同大学の広報部長を務める世耕石弘氏が「知と汗と涙の近大流コミュニケーション戦略」と題した講演で、その裏側を明かした。

内閣府の調査によれば、1992年に205万人だった18歳人口は、2031年には99万人と、半分以下になると予想されている。「大学にとってのお客さまは18歳がほとんど。収入源を学納金に頼る私立大学は、そこをどうにかしないと経営が成り立たない」と世耕氏は言う。志願者の確保は大学にとって死活問題だ。まずは受験生に、大学の存在とその魅力を知ってもらう必要がある。このような背景から、近畿大学では志願者数増加を目指し、広報によるさまざまな仕掛けを行ってきた。
ファッション雑誌ともコラボ
ファッション雑誌「TOKYO GRAFFITI」とのコラボレーションで制作した大学案内は、まるで商業誌のような内容で、多くのメディアで取り上げられた。2013年春の入試から全国に先駆けてネット出願に対応、2014年には完全移行して話題を集めた。ほかにも、入学手続きのネット対応、アマゾンでの教科書販売、VISAプリペイドカード機能付き学生証、音楽コンサートのように派手な演出の入学式など、話題性のあるニュースには事欠かない。実際、2014年度に近畿大学が発信したリリースは年間369件と、他大に比べて圧倒的に多い。メディアに掲載されたものも多く、広報戦略が見事に機能した結果といえる。ニュースリリース配信サービスも利用することで、後から話題になる場合に備えるなど、ネットも活用している。
注目が集まる一方で、批判も受けたという。「学科やゼミの情報が中心」という従来の常識に反した大学案内には「ふさわしくない」という意見もあった。ネット出願に不安や抵抗感を抱く受験生や「手書きであるべき」とする教授もいた。しかし世耕氏は「学科やゼミの情報は、ウェブにすべて載っている。大学案内では、学生やキャンパスの生の姿を伝えたかった。ネット出願では、紙の廃止によるエコというポジティブなイメージを打ち出せた。ネット出願は、いまでは全国的にも珍しくなくなったが、最初に始めたことが広報的には意義があった」と振り返る。
このような広報戦略は、あくまでも大学本来の価値や魅力があってこそのもの。世耕氏も「受験業界における旧来からのブランドや実体のないヒエラルキーによって、近畿大学の実力が正当に評価されていないと感じた。知名度を上げるためのアクションを起こす必要があった」と、表面的な話題づくりではないことを強調する。
最後に世耕氏は「日本には、近畿大学と同じように潜在能力を秘めた大学がたくさんある。本当に実力のある大学が、しっかりと評価されて、高いレベルの学生が集まる。そういう社会を目指していきたい」と語った。