日経デジタルマーケティングは4月18日、読者無料セミナー「Digital Marketing Conference 2016 Spring」を開催した。今回はその基調講演の模様をレポートする。
ペイメント分野におけるグローバルブランドとして知られるマスターカード。基調講演にはマスターカード副社長でワールドワイド マーケティングを担当する秋田夏実氏が登壇。「マスターカードがグローバルに展開するデジタルマーケティング戦略」と題して、取り組みを紹介した。
マスターカードは210以上の国と地域で、21億人の会員や数千万の加盟店に利用されている。多くの消費者、金融機関、政府、企業をつなぐネットワークの支払い処理は世界最速で、その基盤を生かして次世代のプロダクトやサービスを開発するテクノロジー企業である。
マスターカードブランドのクレジットカードは取引先のカード発行会社(イシュアー)が発行する。そのためマスターカードは、カード会員など消費者との直接的な取引はない。この点が、マスターカードにとってマーケティングを行う際のハードルとなる。
秋田氏も「BtoC(消費者向け)企業なら、自社データから消費者のニーズを読み解くことができて、パーソナライズやコミュニケーションが可能だ。個々のニーズに応えるワン・トゥ・ワンが、現在のデジタルマーケティングの定石でもある。しかし、マスターカードにとってはそれが容易ではなかった」と説明する。
この課題を解決するために同社が開発したのが「テクノロジー」「人」「プロセス」の3要素によって構成されるマーケティングプラットフォーム「デジタルEコマースエンジン」だ。
特にテクノロジーは重要な要素だという。常時ソーシャルリスニングによって、有意なトレンドを即座に見出せる環境を整備した。具体的には、SNSから得たユーザー属性や趣味嗜好、ネットの検索動向、マスターカードや加盟店が保有する決済データなど、ネットとリアルを網羅したデータを一括して分析できるデジタルプラットフォームになっている。
PDCAサイクルを12時間内に回す
これを活用するのが、エキスパートで構成された専門チームだ。ソーシャルリスニングなどでリアルタイムに、顧客に各種のキャンペーンなどのオファーを届ける機会を見出し、最適なコンテンツを速やかに用意する。そしてオファーの成果などをリアルタイムで把握し、評価するPDCAサイクルを12時間以内に回せる体制を確立している。
デジタルEコマースエンジンを活用したキャンペーンでは、多くの動画視聴や幅広いリーチを達成し、高いエンゲージメントを確立できたという。事例を紹介しながら秋田氏は「消費者インサイトに基づかないコンテンツは機能しない。徹底したデータ分析によって消費者インサイトを捉え、心に強く訴えるコンテンツをつくることが重要。そこにはパワーがあり、高いエンゲージメントを生む」と語った。この言葉の背景には、企業がウェブサイトで発信する情報が一方的過ぎて、消費者の求める情報とのミスマッチが起きているという実態がある。
最後に秋田氏は、「ビジネスの促進にはデジタルとソーシャルのプラットフォームをいかに確立し活用するかが重要。それにはテクノロジーと人とプロセスをいかに有機的につなげていくかが鍵になる」と話し、講演を締めくくった。