日経デジタルマーケティングは4月18日、読者無料セミナー「Digital Marketing Conference 2017 Spring」を開催した。今回はその講演の模様を3回にわたってレポートする。

 午後1時55分からは、「AIが変える店舗接客、モバイル決済~最新ケーススタディ」と題した講演が実施された。登壇したのは、ハンバーガーショップ“the 3rd Burger”を運営し、モバイル決済や店員のオペレーションなどに、国内でいち早くAI(人工知能)を導入したユナイテッド&コレクティブ マーケティングコミュニケーション部長の渡邉烈任氏と、同社が導入するモバイル決済やAIプラットフォームを展開するShowcase Gig代表取締役新田剛史氏である。両氏は自らの体験を基に、今後のAIの活用方法について展望を述べた。

ユナイテッド&コレクティブ マーケティングコミュニケーション部長の渡邉烈任氏(左)とShowcase Gig代表取締役新田剛史氏(右)
ユナイテッド&コレクティブ マーケティングコミュニケーション部長の渡邉烈任氏(左)とShowcase Gig代表取締役新田剛史氏(右)

 ユナイテッド&コレクティブは、居酒屋の「心」「てけてけ」といった、新鮮な食材を各店舗で仕込み、調理することにこだわった飲食チェーンを手がける企業だ。4店舗を展開する“the 3rd Burger”も、バンズやパテを店舗で作り、若い世代に人気のハンバーガーショップとなっている。

 一方、Showcase Gigは、モバイル決済やAIプラットフォームを実店舗でどのように活用できるかを検証するため、自社でコーヒーショップを運営する。国内では初となる事前注文・決済で商品を購入できるデジタルコーヒースタンドだ。事前にスマートフォン上のアプリで商品をオーダーすると、出来上がり予定時間が表示され、完成したタイミングでバリスタからプッシュ通知がやってくる。決済は事前に登録したカードで済んでおり、顧客はレジに並ぶことなく商品をピックアップできるというものだ。

 現在、the 3rd Burgerでもこの仕組みを取り入れている。これにより、10分以上はかかっていたというランチタイムの長い待ち時間が解消されたのに加え、出勤時の電車内からオーダーを入れ、いつも決まった時間に同じものを購入するヘビーユーザーなども現れたという。

 こうした事前注文・キャッシュレスペイメント形式を導入する飲食店は、米国や中国で今すごい勢いで増えている。特に米国スターバックスは、全米1万店舗にこの形式を導入した結果、アプリ経由でのオーダーが約27%を占めるに至り、事前注文専門店をオープンしたほど。レジを介さないため受注時間の短縮、ひいてはコスト削減を実現しながら、同時にアプリを使って、顧客データの収集やリワード(ポイント)プログラムの提供、店舗からのプッシュ発信などを可能にした。顧客の利便性を向上させつつ、店側もメリットを得られるわけだ。新田氏はこの傾向をこのように話す。

 「いま世界的にこの業種では、“インストアからモバイルへ”というのが1つのキーワードになっている。私たちも、国内の飲食業界における人材不足の補完やマーケティング精度の向上を意図して、こういったデジタル施策に取り組んできた」

 そして渡邉氏はこのように続ける。「今後、飲食店は、顧客とのコミュニケーションをより密にしていく必要がある。ロンドンのある店では、注文レジをなくして、顧客は店に備え付けのiPadで注文する。そこでは、例えばサラダを注文する際、具材ごとに表示されたバーを左右に移動することで好みの量を調整でき、かつカロリーの量が表示されるといった仕組みを導入している。こうした、注文をよりパーソナライズするツールも求められるだろう」。

昨年7月からAIを活用したチャットbotを導入

 AIの活用に関しても、同様に米国が進んでおり、ドミノ・ピザなどではアマゾンエコーのベースとなっている米アレクサーのAIを活用し、音声でのオーダーを可能にしているという。

 そうした中で“the 3rd Burger”は、昨年7月よりAIチャットbotの導入を開始した。例えば、会話上でその日の気分を伝えると、AIがお薦めのハンバーガーやスムージーを提示してくれ、そのまま一連の流れで注文、決済まで完結できるというものだ。現在、チャットbotが利用できる店は1店だけだが、今後はさらに増やしていく考えだ。

 飲食業界におけるAIは、パーソナルアシスタントがキーワードになってくる。概念としては、人間が考えてAIがそれをサポートする、または人間は考えずしてAIがサポートしてくれるという2種類が考えられる。ユナイテッド&コレクティブが目指すAIは、前者のやり方で、“野菜がいっぱい”や“がっつり”などのキーワードで相談すると最適なものをリコメンドするというものだ。

 渡邉氏は続けて、「今後AIは、よりさまざまなデバイスとつながっていくことで、シームレスに活用できる時代がくるだろう。ユーザーの誕生日や記念日にお薦めのコースを自動的にリコメンドしたり、また再来店への誘導施策として一定期間以上足を運んでいない顧客に情報を発信するなど、そういう機能を期待する。またAIに店長のような個性が加われば、さらに面白いものができそうだ」と語った。

 最後に新田氏はこうまとめた。「AIをどれだけ自然に、日常生活に溶けこませられるかが重要になる。その行為が不自然だったり、おっくうだったりすれば、いずれ使われなくなってしまう。デジタルやテクノロジー、AIが当たり前の存在になり、これらのテーマで議論をしなくて済むところまで持っていけるかどうかが、これからのポイントになるだろう」。

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