日経デジタルマーケティングは4月18日、読者無料セミナー「Digital Marketing Conference 2017 Spring」を開催した。今回はその講演の模様を3回にわたってレポートする。

 午後の最初の講演には、「何故、IDOMは、AIチャットをやめたのか? 〜AI導入にあたって考えるべき事、やるべき事〜」と題し、IDOM(旧:ガリバーインターナショナル)のデジタルマーケティングセクション セクションリーダー中澤伸也氏が登壇。冒頭「本日のカンファレンスではたくさんの成功事例が話されていると思うが、まさか自身の失敗例を披露することになるとは半年前はまったく想像していなかった」と話し、聴衆の笑いを誘った。

IDOM デジタルマーケティングセクション セクションリーダー中澤伸也氏
IDOM デジタルマーケティングセクション セクションリーダー中澤伸也氏

 IDOMは、中古車買い取り・販売を主力とするガリバーインターナショナルが昨年、社名変更したもの。店名としてガリバーの名称は継続使用されている。現在、グループとしては中古車のみならず新車販売なども手がけ、自動車の取扱い流通台数は国内ではトップ、世界でも2位の規模を誇る。店頭在庫をほとんど持たず、全国約540店舗、約3万台もの在庫情報をオンライン上で一元管理。来店した顧客には商談テーブル上でインターネットの画面を見ながら、営業マンがお薦めの車両を販売するシステムを取っている。

 オンライン上で問い合わせも受けてきたが、顧客にとって仕組みが複雑で歩留まりが悪いこともあり、新たな問い合わせの窓口として、チャットを活用した営業接客「クルマコネクト」を導入。その過程で、営業アシスト(車両レコメンド)、チャットbot、有望顧客の判別という3つのテーマに対して、AIの活用を試みてきた。

 営業アシストは、顧客への提案車両を営業マンにアドバイスする機能をもった車両レコメンドAI。約8カ月の開発期間を経て実装にまで至ったが、現在は使用を中止。残りの2つも、検討を進めてきたが採用は見送りになっているという。

AIありきの施策になってしまった

 それらの要因について中澤氏は、「ビジネスの課題に対してどうAIを使っていくのかということよりも、AIを使って何をやるのかというAIありきの施策になってしまった」と振り返る。

 営業アシスト(車両レコメンド)に関しては、まず多くの顧客は排気量や馬力といった数字でクルマを選択しているのではなく、カッコいい、乗り心地がいいなどといった感性で選んでいるという前提があった。それを基に、クルマに関するさまざまなレビューのテキスト情報から、デザインや乗り心地など感性に該当する言葉をデータマイニングで分類化。結果、優秀な営業マンの選択に近いレコメンド結果を導き出すことができるようになった。

 ところが、あるスタッフがエクセルで同じような機能を作り上げた。それが導き出す結果はAIと近く、逆にそちらのほうが客受けもいいという事態が起きてしまった。中澤氏は、「冷静になって考えてみれば当たり前のことで、人間の感性に近づけようとすれば、AIであれエクセルであれ、導き出される答えは近くなり、人間を超えるものではない。本来の目的はAIを使って営業の質を高め、時間を短縮することだったが、いつの間にかいかにレコメンド機能を高めるかに目的がすり替わってしまった」と振り返る。

 またチャットbotに関しては、1年検討した結果、大きく2つに分類できることが分かったという。ECや店舗検索といったゴールの設定があって、その検索アシストとして使われるタスク型のものと、米マイクロソフトの“りんな”に代表される会話型のものだ。

有望顧客を判別するAIは他社と提携して開発予定

 中古車検索は一見すると前者のタイプに見えるが、実はそうではない。例えば“予算100万円でレクサスのオープンカー”と顧客の要望通りに検索すると該当結果は0台になってしまうケースが多い。中古車検索においては、会話の中で、本当に顧客が欲しがっているものは“レクサス”ではなく、“カッコいい”オープンカーなのだという文脈を読み解いた上で、提案を膨らまして絞り込み、また別の提案を膨らまして絞り込む、そういったプロセスが必要になる。「いろいろ調べてみたが現時点では、現実的な予算内でこれが実現できるAIは存在しないことが分かった。従って現在、チャットに関してはアルバイトを増強し、ABテスト形式で想定問答集を用意してデータの収集に力を入れている」(中澤氏)。

 有望顧客判別AIについては、「直近でもっとも取り組みたい課題だが、大量のデータとディープラーニングが必要。リスクも高く、コストも厳しいため、単独で動くことは難しいが、ビジネス課題が共通している他社と提携してやっていく予定。今、数社に声をかけている段階」と話した。

 そして中澤氏は最後に、「その課題に対して、AIを使うべきなのか、AIで解決すべきなのかをしっかりと考えた上で、これからも継続的に取り組んでいきたい」と展望を語った。