日経デジタルマーケティングは4月18日、読者無料セミナー「Digital Marketing Conference 2017 Spring」を開催した。今回はその講演の模様を3回にわたってレポートする。
午前中のセッションには、ライフネット生命保険代表取締役社長 岩瀬大輔氏が登壇。「企業経営に変革を起こすAIの可能性」をテーマに基調講演を行った。
ライフネット生命は2006年に保険外交員を廃したインターネット直販型の生命保険会社として創業。2009年には日本で初めて、モバイルでの生命保険申し込みサービスを開始するなど革新的な取り組みで知られる。

そもそも保険業界では、医療情報などビッグデータを活用してリスク計算を行うといった取り組みが、積極的に行われてきたという背景がある。そうした中で現在、岩瀬氏はAI(人工知能)の活用方法について自ら積極的に情報収集に努めており、今年3月には米アリゾナ州で開催された最先端のカンファレンスに参加してきたという。
「シンギュラリティ(Singularity:技術的特異点)を迎えて、AIが人間の能力を超えるという話があるが、いま米国ではAIに関する議論が積極的に行われており、医療や遺伝子編集などに携わる有識者の間でも、AIが人間を超えるか超えないのか、それに対する意見は真っ二つに分かれていた。個人的には機械が人間を超えることはないと思っているが、専門家のあいだでもまだ正解は分からないというのが現状」と述べた。
その上で、英経済紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」の特集で最近、最も読まれた記事として「トラック運転手の終わり?」を例示した。これは自動運転が実用化されることによって、アメリカにいる350万人ものトラックドライバーが職を失うという内容だ。岩瀬氏自らも、車が自動で縦列駐車するなど既に実現化された一部自動運転を試した体験を基に、一定の速度での長距離移動や定型化された動作などはAIに向いており、人間をアシストするかたちでの活用はあると感じていると話した。
AI活用で重要になるのはデータと人材
次に、いわゆるAIと呼ばれているものの全体像を図示した上で、岩瀬氏自身が考えるAIの定義として、ビッグデータとIoTの掛け算による膨大な情報や技術が手中にあるという前提の下、コアにあるのは機械学習(マシンラーニング)であり、それにパターン認識、神経科学などをプラスアルファしたものを指すと理解していると話した。
実際、金融の世界においては、フィンテック(FinTech)の進む中国などで、顧客にどの程度の返済能力があるのか、さまざまな条件からわずか15秒で行うローン審査が既に存在する。また保険分野でも、日本のかんぽ生命が米IBMの「ワトソン」を使って、保険金の支払い査定を簡素化する取り組みを始めている。
これらを受けて岩瀬氏は、「アルゴリズムやエンジン自体はコモディティー化するので、AIを活用する際に大事な資源は、まず大量のデータの保有。次にビジネスの文脈に乗せて解釈する必要があるため、データに精通した人材の確保になる。結局、大事な要素はデータと人材の2つで、それは今も変わらない」と語った。
次いで、同社のAIに関する取り組みとして、生命保険会社として初めて、LINE上で保険相談を行う仕組みを挙げた。チャットbotをはじめ「Facebook」の「Messenger(メッセンジャー)」も使えるようにしたことで20代の利用者が増えているという。ただ、これは裏にオペレーターが控えており、簡単なやり取りはチャットbotで、複雑なものはオペレーターが担う「自動応答×有人対応」のハイブリッド型になっている。「この仕組みを導入したことで、これまで1人の顧客にしか対応できなかったものが、同時に3人、4人に対応できるようになっている。完全に自動化するのではなく、機械が人間をより効率化してくれるような仕組みが、バランスがいいのではないかと考えている」と岩瀬氏は話した。
そして最後に、AIがなぜ単なる技術を超えた神秘的なものと見られたり、多くのひとの関心を引き寄せるのかということについて、脳科学者の茂木健一郎氏の以下の言葉を引用して講演を締めた。「人工知能は、人間が、自分自身を理解したいという強い欲望に基づいて構築するものなのである」。