決済プラットフォーム:難しかった事前決済を可能に

 タブレット端末の導入が進むことで、決済プラットフォームの拡大も期待できる。JapanTaxiが3月1日から提供する「JapanTaxi Wallet」は、タクシーではこれまで難しかった事前決済を可能にするサービスだ。

 これまで事前決済が難しかった理由はタクシーの料金が、混雑状況や経路によって変わり、目的地に着くまで確定しないからだ。これがハードルとなっていた。ただ、「タクシーの利用者の中には、急いでいて支払いのやり取りをする時間すら惜しいという人もいる」(金氏)。事前決済を実現できれば、それも1つの付加価値になると考えた。

スマホを活用した決済サービスを3月に開始
スマホを活用した決済サービスを3月に開始

 そこで開発したのが、全国タクシーアプリ利用者向けの新しい決済サービスだ。事前に全国タクシーアプリに決済方法を登録しておくことで利用できる。決済は、クレジットカード、NTTドコモやKDDIが提供するキャリア決済サービスなど複数の方法に対応している。

 決済方法を登録した状態で、IRISのタブレット端末が搭載されたタクシーに乗車して、タブレットに表示された「JapanTaxi Wallet」ボタンをタップすると、画面にQRコードが表示される。このQRコードを全国タクシーアプリの決済機能で読み込むだけで、支払いは完了する。目的地に到着後は、紙のレシートを受け取るだけですぐに降車できる。

 とはいえ、他の決済サービスを排除するわけではない。今年1月にはスマホサービス開発会社のOrigami(東京都港区)が提供する決済サービス「Origami Pay」に対応したほか、中国の大手ネットサービス会社テンセントの決済サービス「WeChat Pay」にも対応するなど、利用できる決済サービスを増やしている。あくまでも、利便性の向上を目的に多様な決済手段を提供していく。

データプラットフォーム:AIによる配車システムも開発中

 配車、広告、決済という既に実現しているプラットフォームに対して、まだ構想段階ではあるが大きな可能性を感じているのがデータプラットフォームだ。

全国のタクシーから走行データを取得してデータ販売を目指す
全国のタクシーから走行データを取得してデータ販売を目指す

 JapanTaxiの岩田氏はタクシーにセンサーを取り付けることで取得できるデータが、非常に大きな価値を生むという。よりリッチな走行データを取得するため、同社は高低差まで検知しデータを取得できるセンサーをタクシーに搭載することを検討している。「4000台を超える自動車が常に走り、1日に走る距離は300kmに上る」(岩田氏)。こうした走行データは、自動車メーカーや地図会社などからのニーズが高いと見る。そうした走行データの販売にも今後、挑戦していく。

 また、データを活用した新しい仕組みの開発にも取り組んでいく。その最たる例が、AI(人工知能)による配車サービスだ。全国タクシーに参加する数万台の配車データ、天気予報のデータ、列車の運行データなどの第三者のデータも含めてAIで分析する。これにより需要の予測を立てる。例えば、ゲリラ豪雨が起こる兆しのある地域は、タクシー需要が高まる可能性が高いといった具合だ。

 この予測に基づいて乗務員に指示を出す。JapanTaxiでは乗務員向けアプリの開発も手掛けており、勤怠情報や位置情報はすべて取得している。このデータから、対応可能な乗務員に対してアプリを通じてAIが指示を出し、効率的に配車をして収益性を高める。そんなシステムを開発中だという。ただ、「すべてのタクシーの配車データが分かるため、どこまでデータを利用するかは慎重に進めなければならない」(岩田氏)。

 JapanTaxiを通じてさまざまなプラットフォームを開発し、事業モデルを大きく転換しようとしている日本交通グループ。その挑戦の成否は、中立性を保てるかどうかにかかっている。経営共創基盤の川上氏は、「JapanTaxiという子会社を通じてプラットフォームを展開したことは、事業戦略上、正しい」と評価する。しかしそれでも、「結局はお前たちが儲けるためにやっているんだろうというふうに言われることもある」(川鍋氏)。こうした声の主に納得してもらうには、サービスの対価を払ってもそれ以上に収益が向上することを、根気よく示していく必要がある。

独自路線のタクシー会社も

 また、全国タクシーアプリというプラットフォームへの参加は、日本交通ブランドの上で事業を展開することになる。それゆえ、強力なブランドを持つタクシー会社であるほど、ブランド毀損につながりかねない。

 京都を中心に「MKタクシー」ブランドで事業を展開するエムケイ(京都市南区)も、そうした理由から独自サービスを展開する1社だ。エムケイの青木信明社長は、「タクシーを単純にネットワーク化しただけでは、サービスに優劣がつく。(全国タクシーという)同じ看板を掲げている中でサービスにばらつきが出ては、ブランド力を維持できない」と指摘する。だから、エムケイでは8都市で展開する事業所をすべて一から立ち上げて乗務員を教育し、高い水準のサービスを維持している。「MKというブランドを全面に押し出すため、量より質を重視する」(青木氏)。

 それゆえ日本交通のプラットフォームには参加せず、独自の戦略を打ち立てる。「乗務員不足が顕著になる中、ライドシェアがタクシーを補完していく可能性は高い。それが進んだ時に、タクシー会社とライドシェアの役割分担が明確になる」。青木氏はこう見通す。将来、現在のタクシーが担っている役割は、大半がライドシェアが担うと見る。そこでエムケイは、法人需要あるいは富裕層へとターゲットを絞っていこうと考えている。具体的には空港送迎とチャーター(貸し切りタクシー)への特化だ。実際、東京MKタクシーはUberと提携してクルマを提供している。これによりチャーター費用を収益として得ている。近いうちに京都でも同様の展開をするための準備を進めているという。

 また、デジタルを活用したサービスでも独自路線を貫く。同社は独自の配車アプリ「MKタクシースマホ配車」を提供しており、ダウンロード数は55万に達している。今後、利便性を高めるため、同アプリと、エムケイが発行するプリペイド機能を持つポイントカード「TACPO(タクポ)」との連携を強化する方針だ。例えば、配車アプリ上でTACPOのプリペイド機能を使って支払いが完了する機能などを検討している。

 エムケイのように自社のブランドにこだわりのある企業であれば、このような独自路線を貫くことも考えられる。だが、どの道を選ぶにせよ、タクシー業界に立ち止まっている時間はない。今年1月、東京23区と2つの市でタクシー初乗り料金を引き下げると発表する場に現れた川鍋氏は、「2017年はタクシーが大きく変わったと実感できるように行動していく」と宣言した。「デジタル側の文化、仕組みをどれだけ植え付けられるかで、タクシー業界の生死が決まる」と川鍋氏は闘志を燃やす。タクシー業界に変革の時が近づいている。

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