配車プラットフォーム:提携戦略でネットワーク拡大

 JapanTaxiのプラットフォーム戦略において土台となるのが、スマホアプリの全国タクシーを中心とした配車プラットフォームだ。全国タクシーの画面に表示された地図の上で自分がいる場所を指定すると、最も近くにいるタクシーを配車する。当初は日本交通の顧客を対象に手軽にタクシーを呼べる付加価値サービスと位置付けていたが、JapanTaxi設立後に本格的プラットフォームとして提供し始めている。

全国で利用できるアプリ「全国タクシー」
全国で利用できるアプリ「全国タクシー」

 この配車プラットフォームと類似するサービスとして想起されるのはUberだろう。Uberは一般の消費者をタクシー運転手としてネットワーク化することで、広域を対象とした配車を可能にしたが、現状、国内では同社の事業はタクシー会社と連携したハイヤーの配車にとどまっている。一方、タクシーは国土交通省がタクシーの減車に向けて規制をかけており、1社で全国をカバーするのは不可能だ。

 そこでJapanTaxiは、日本全国の多くのタクシー会社と提携して、全国でタクシーを配車する。配車に応じて、他のタクシー会社から配車手数料を徴収するのだ。既に47都道府県で約400社、4万3000台がこの全国タクシーのネットワークに参加している。これは日本のタクシーの約2割に相当するという。「これを早期に5割超にまで高めることを目指す」とJapanTaxi取締役CTO(最高技術責任者)の岩田和宏氏は言う。

 シェア向上のためにはJapanTaxiのプラットフォームに参加するメリットを、タクシー会社に示していく必要がある。アプリの利用者数の増加や利用率の向上は、提供できる最も分かりやすいメリットだろう。利用者が増えれば、配車手数料を負担したとしても、参加するタクシー会社の収益向上につながるからだ。

Googleマップとも連携

 JapanTaxiが利用者を獲得する上で取り組んでいる施策の1つが、他のプラットフォームとの連携だ。3月23日以降、グーグルの地図アプリ「Googleマップ」から、全国タクシーに参加するタクシーを呼べるようにした。Googleマップ上で行き先を指定して、電車や徒歩といった移動手段でかかる時間を表示するメニューに、タクシーでかかる時間を示す項目がある。その項目を選び、全国タクシーを選択すると、近隣を走るタクシーの位置と想定される利用料金が画面に示される。次に「アプリを開く」ボタンを押せば、現在地と目的地が設定された状態でアプリが立ち上がる。乗る場所を調整するだけで、すぐにタクシーが配車される。

 また、4月中には、iPhoneに音声で問いかけて、質問の回答を得たり、アプリを操作したりできる音声アシスタントソフト「Siri」との連携も始まる。Siriに話しかけることで、タクシーが呼べるようになる。金氏は「電話や道で手を上げて流しのタクシーを捕まえるのではなく、ネットを使ってタクシーを呼べるという体験を増やす機会をどれだけ創出できるかが、マーケティング課題になる」と説明する。さまざまなプラットフォームとの連携は、アプリをより便利に使えるようにするだけではなく、全国タクシーとのタッチポイントをなるべく増やして利用機会を創出しようという狙いがある。

2017年2月のMAUの比較
2017年2月のMAUの比較

 全国タクシーはダウンロード数が300万を超えるなど、徐々に消費者に浸透しつつある。プラットフォームであることがサービスの利便性を高め、利用者の獲得につながっている。他のタクシー会社の中には、独自で配車アプリを提供するところもあるが、1社では配車できる台数や地域に限りがある。よほどブランドに愛着がある消費者でなければ、1つのアプリで幅広く利用できる全国タクシーを選ぶだろう。

 実際にデータ面から見ても、全国タクシーが国内で先頭を走っていることは明らかだ。米アプリ調査会社のアップアニーによれば、全国タクシーの2017年2月の月間利用者数(MAU)は70万9000人となっている。これは、利用者数上位のタクシー配車アプリのうち、日本交通を除く3社を合計した数値よりも2倍以上も多い。「MAUは毎月1.5倍のペースで増え続けている」(金氏)。

広告プラットフォーム:来店効果も分かる動画広告

 JapanTaxiにとってベースとなる配車プラットフォーム、その上に乗るのが広告プラットフォームだ。今年中には広告媒体としてのタクシーのネットワーク化にも取り組んでいく。広告事業を推進するのは、前編冒頭で紹介したIRISだ。同社はタクシーに設置したタブレット端末に配信する動画広告のネットワークを開発している。現在は日本交通のタクシー3500台にタブレット端末が搭載されているが、「4月中には提携会社も含めて4100台にまで拡大する予定」(溝口氏)という。

共同出資会社を通じてタブレット端末を活用した広告事業を展開
共同出資会社を通じてタブレット端末を活用した広告事業を展開

 この広告事業の開始に当たって、共同出資会社の設立を持ちかけたのは溝口氏からだったという。フリークアウトといえば、国内のDSP事業の先駆者として上場も果たした広告技術会社だ。その同社がタクシーで広告を配信することになぜ可能性を感じたのか。その理由は、大きく3つある。

 まず利用者層だ。日本交通が主な商圏としている東京都内のタクシーの利用者は、ビジネスパーソンが多い。さらに、所得が高い会社の経営者層になるほど毎月の利用頻度は高くなる。東京ハイヤー・タクシー協会の「タクシーに関するアンケート調査」によれば、経営者層の75%が月に4回以上タクシーを利用すると回答しており、この数値はすべての職業の中で最も高い。こうした「高所得者層にアプローチできる媒体は少ない」(溝口氏)うえに、日本交通のタクシーには月間で延べ200万人が乗車する。単純にリーチできる人数も十分と踏んだ。

 次にプライベートな空間であるという点だ。タクシーの利用者は、大半が1人か2人で乗ることが多い。平均乗車時間18分。その間は、外界と隔離されたプライベートな空間になる。ここに動画広告を配信することで、高い視聴率が期待できる。

 最後がブランディング効果だ。プライベートな空間に、サイズの大きなタブレット端末で動画を配信すれば、スマホやパソコン以上に視覚的な効果を与えられる可能性がある。

メーター連動の広告配信システム

 こうした理由から、主にブランディングを狙った動画広告を配信するプラットフォームとして活用できると判断した。広告は、タクシーの後部座席に設置したタブレット端末に配信される。料金メーターと連動して広告が配信される仕組みも開発した。空車の時にはタブレット端末には時刻が表示されている。利用者がタクシーに乗り、料金メーターが動きだした時点で最初の動画広告が配信される。

 広告技術会社ならではのデータを活用したターゲティングメニューも開発した。利用できるメニューは3つある。まず、GPS(全地球測位システム)の位置情報を活用した広告クリエイティブの出し分けだ。例えば、不動産会社であれば、利用者が乗車した地域に合わせて近隣のマンションの広告を出し分けることができる。2つ目が男女での出し分けだ。タブレット端末の表面にカメラがついており、そのカメラを通じた画像解析から性別を判定して広告を出し分けられる。この時、年齢の判別も技術的には可能だが、あまりターゲットを分割すると配信できる母数が減ってしまうため、現在は商品化していない。そして、最後のメニューが曜日・時間の指定となる。

 広告効果の分析にも、フリークアウトの知見が生かされている。例えば、全国タクシーアプリの利用者と、限定的ではあるが動画広告閲覧者のビュースルー効果を分析できる。タブレット端末のBeaconが利用者のアプリと通信をして、計測タグを埋め込む。その後、利用者が同じスマホで広告主のサイトを訪問したり、サイトで購入したりした場合、間接効果として計測できる。また、位置情報の提供に同意する利用者であれば、GPSの位置情報から、広告主の店舗への来店といったオフラインへの誘導も計測できるという。

 商品設計から広告効果測定まで、広告技術会社のノウハウを惜しみなく投入しているがゆえに、広告主からの反響も大きい。「3月の最終週はすべての広告枠が売り切れだった」とIRIS取締役COO(最高執行責任者)の飽浦尚氏は胸を張る。

 関東だけではなく地方での広告商品も既に検討段階に入っており、「年内には他社にもタブレット端末の導入を進める」(岩田氏)ことで、広告事業を拡大する計画だ。

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