「日経メディカルOnline」が昨年11月に実施した調査によれば、無料通話・メールアプリ「LINE」を月1回以上利用している人は医師で44.2%。薬剤師では56.4%と過半数に達している。医療関係者にも広がるLINE活用の流れを受け、eメールからLINEによる情報提供へとコミュニケーションツールの転換に力を注ぐのが医療用医薬品メーカーのアストラゼネカ(大阪市北区)である。

会員に対するアンケート調査を複数回実施し、利用者本位の機能改善などを目指す
会員に対するアンケート調査を複数回実施し、利用者本位の機能改善などを目指す

 同社は昨年12月、医療用医薬品メーカーとして初めて「LINE公式アカウント」を開設した。まず始めたのはLINEのトーク機能を使って、オウンドメディア「MediChannel」に掲載した医療関連情報の更新などを知らせるサービスだ。これに今年5月、スマートフォンのGPS(全地球測位システム)機能を活用し、医師や看護師などが今いる場所に合わせて情報を出し分けるサービスを追加する。

 具体的には、同社の主力領域の1つである呼吸器系を専門とする医師らに、今いる地域別の「ぜんそく天気予報」を提供する。喘息発作の原因の1つと言われる気象条件を基に特定非営利活動法人が作成している「喘息指数」と、その場所の気温、湿度などの情報を提供するもの。例えば、病院を掛け持ちしているような医師などが出先の病院でも喘息発症につながるリスクファクターを把握し、患者に対するアドバイスなどに生かす、といったことができるだろう。

 さらに今年後半には独自のキャラクターを作成し、そのキャラクターを配した大型絵文字「LINEスタンプ」を提供することも計画している。こうした施策を展開することで、公式アカウントを友だち登録する医師らの数を一気に拡大。情報提供のメーンチャネルとして確立することを狙う。

メールでは1割しか見てもらえない

 アストラゼネカがLINE施策に力を入れる背景には、MediChannelで提供している情報が医師らに届きにくくなっている現実がある。約12万9000人いる登録会員に向けて診療分野ごとの製品・疾患情報、解剖イラスト、疾患別の動画など医療現場で役立つツール、そして医療業界ニュースなど膨大なコンテンツを整備。更新情報を「MediMaga」というメルマガを通じて告知してきた。多忙な医師らに少しでも興味関心を持ってもらおうと、同一内容の一斉送信ではなく、呼吸器や循環器といった専門分野ごとに内容を出し分ける工夫もしている。それでも開封率は低下傾向にあり、最近では、平均17%だという。こうした現状を打開する施策として、業界初のLINE活用を決断した。

 そんな背景があるため、本施策の旗振り役でコマーシャル・エクセレンス&インフォメーション統括部長を務めるフローレン・エドワー氏の期待は大きい。「LINEでは、友だち登録してくれた人の70%ほどに情報を届けられるようにしたい」と話す。

 もちろんLINEのプッシュ通知の“開封率”を高めることは手段であって目的ではない。そこで7月と10月に会員に対するアンケート調査を実施。LINEを通じて本当に提供してほしいサービスを調べ、その結果をLINE施策に反映させていく方針だ。こうした利用者本位の改善を重ね、今年末までに会員の15%に公式アカウントの登録をしてもらうことを目指す。

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