パルコは自社の商業施設「PARCO」に入居するテナント向けに、店舗の商品を自由にネット販売できる新たなプラットフォームを今年中に提供すべく、自社開発を進めている。現状は、ブラケット(東京都渋谷区)が提供するEC(電子商取引)サイト構築サービス「STORES.jp」を活用したシステムをテナントに提供しているが、商品在庫や購買履歴といったデータの取得に課題を感じていた。そこで、自社開発のシステムに切り替えることで、テナントからデータを吸い上げ、オムニチャネルの推進に活用する。

 システムの開発には当然コストがかかる。それでも自社開発に踏み切れたのは、パルコがこれまで取り組んできたオムニチャネル施策が実を結び始めたからだ。テナントの中には、月間の売り上げの15%を、システムを活用したアプリ経由で稼ぐ店舗も現れている。

地域別プッシュ通知で来店率15%増

 パルコは2014年に、テナントが投稿した新商品や入荷の情報などを利用者が受け取れるスマートフォンアプリ「ポケットパルコ」を提供して、本格的にオムニチャネルに取り組み始めた。アプリ利用者は配信された情報をお気に入り登録(クリップ)したり、店舗に来店したりすることでポイント「コイン」がたまる。コインは5万ためるごとに、500円の割引券と交換できる。来店コインなどはサービス開始当初、ごく一部の店舗のみを対象に試験的に始めた施策だったが、利用者拡大に合わせて、昨年3月に全店で来店コインをためられるようにした。同アプリは約30万件がダウンロードされている。

パルコが提供しているスマートフォンアプリ「ポケットパルコ」
パルコが提供しているスマートフォンアプリ「ポケットパルコ」

 パルコはこのアプリを通じて、さまざまな施策を展開。データを取得してオムニチャネルへの効果を測定してきた。

 例えば、地域を絞った情報発信だ。ポケットパルコではアプリ起動時に、GPS(全地球測位システム)の位置情報データを取得している。このデータを使って、過去3カ月以内に浦和店の周囲5キロ以内でアプリを起動した利用者限定で、来店で取得できるコインが5倍の500コインになる、3日限定のキャンペーンを告知した。すると、前週比でアプリ利用者の来店者数が15%増加する結果となった。これは、「セールなどと同等レベルの来店促進効果だ」と執行役WEB/マーケティング部担当の林直孝氏は評価する。

 また、パルコは自社ブランドのクレジットカード「PARCOカード」を発行している。このカードを事前にアプリに登録しておくことで、カードで買い物をした時にもコインがたまる。このカード登録者に対して、セール時に合計1万円以上のカード決済をすると、500円のクーポンを配布するキャンペーンを実施した。

 さらに、決済額が1万円に満たなかった来店者に対しては、プッシュ通知で1万円以上の購入でクーポンがもらえる旨を通知した。すると通知を受け取った人の半数がその日のうちに平均3回、購買行動を取る結果につながり、買い回りにも効果があることが実証された。

 こうした施策の実施とデータによる効果検証を繰り返しながら、アプリの利用の有無で、パルコ来店頻度や、年間利用金額に違いがあるか、といった分析にも取り組んだ。

 分析には、先述したPARCOカード会員のデータを用いた。アプリにPARCOカードを登録している会員であれば、アプリ上でどんな情報をお気に入り登録しているのか、実際に来店したのか、さらにPARCOカードで決済した際はどの店で買い物をしたかが分かるため、アプリとクレジットカードの利用情報をひも付けて分析できる。

アプリ利用者は購入額が92%高い

 そこで、PARCOカード登録者を対象に昨年12月の1カ月間で、どれぐらいの情報がお気に入りに登録され、そのうち何%が来店して、購買につながっているかを分析した。情報を1件でもお気に入り登録をした人のうち、44%が来店していた。さらに、来店した人のうち75%が買い物をしていた。「情報のお気に入り登録が、来店の動機になり、さらに購買にも結び付けられていることが明らかになった」(林氏)。

ポケットパルコで情報をお気に入り登録することが来店と購買につながっていた
ポケットパルコで情報をお気に入り登録することが来店と購買につながっていた

 また、PARCOカード保有者においても、アプリの利用の有無でパルコの利用に大きな差がでることが分かった。まず、アプリ利用者は、非利用者と比較して、来店頻度が74%高かった。さらに、1回当たりの購入金額は11%高く、年間の購買金額では92%も高いことが分かった。

 そこで、アプリ利用の活発化を目指し、3月18日にアプリを刷新。機械学習によるコンテンツの配信を始めた。利用者の反応を蓄積して、機械的にパーソナライズした情報配信を狙う。また、お気に入り登録で得られるポイントをこれまでの1ポイントから10ポイントへと、一気に10倍に増やした。

 データは自社だけで活用するのではなく、テナントに対しても来店者を増やすために役立つデータとして提供する。例えば、パルコの店舗で商品を購入したアプリ利用者に対してポイントを付与する際に、店舗でのサービスについて5段階で評価してもらうアンケートを実施している。アンケートでは、接客で良かった点や不満点などの意見も投稿してもらう。アンケート回答者には、さらに100ポイントを付与する。昨年9月に始めた施策だが、既に10万件以上のアンケート結果が得られている。

 パルコはこうした評価が、再来店に影響を及ぼしているかどうかも分析した。すると、最高評価を付けたアプリ利用者の50.6%が再来店していた。その一方、最低評価を付けた場合には再来店率が37.0%にまで低下する。こうしたデータや具体的な意見については、各店舗がポケットパルコの管理画面上で見られるように提供している。店舗はそうした評価や意見を参考にしながら、店舗接客の改善に役立てられる。

 このようにパルコはポケットパルコを通じて、売り上げの増加や顧客分析、利用者へのアンケートによる店舗接客の改善など、幅広い面で自社のマーケティング施策に役立つデータを得られるようになった。しかし、これまで唯一得られていないかったのがネット通販に関連したデータだった。

 パルコがテナントに提供するネット通販の仕組みは今、このようになっている。テナントは、STORES.jpのプラットフォーム上にポケットパルコに発信する商品情報を登録する際、店舗の商品をネットで売りたい場合は在庫情報や価格なども登録する。これにより、STORES.jpを介して販売している。ところが、他社のプラットフォームを利用しているため、「在庫や購買履歴といったデータが十分に取れていない」(林氏)。さらにネット通販の場合、購買金額に応じたポイント付与サービスも提供できておらず、利便性を損ねていた。

 こうした背景からこのたび、ネット通販の仕組みの自社開発に踏み切った。これにより、店舗の在庫情報やネット通販のデータを一元的に扱い、さらなるオムニチャネルの推進を目指す。

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