デジタルマーケティングにおいて、顧客体験(ユーザーエクスペリエンス、UX)が重要と言われて久しいが、実際には何をすればよいのか――。その難問に、デジタルチームの意識改革とUXを再設計するためのシステム導入によって挑戦しているのが、英金融大手ロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)である。

UXの再設計などで、モバイル経由のローン申し込みを20%増加させたロイヤル・バンク・オブ・スコットランド
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UXの再設計などで、モバイル経由のローン申し込みを20%増加させたロイヤル・バンク・オブ・スコットランド

 日本では将軍・徳川吉宗の時代に当たる1727年に創業してから今年で289年。総資産は1兆7000万ドル、英国を中心に世界に2400万人の顧客を抱え、英国女王も顧客だという同行は、2014年からUX改善などに取り組んできた。そして2015年には前年比でモバイル端末を利用したローン申し込みが20%増加するなどの効果が出ている。

 実はRBSはそれまでもWebサイト、モバイルサイト、モバイルアプリといったデジタル施策を展開していた。しかし「当行の花火文化のために、思うような成果が出なかった」と分析トップを務めるジャイルス・リチャードソン氏は振り返る。「花火」とは、次々と新しい機能やサービスを打ち上げるが、それで終わっていた、ということ。施策の効果を測定して、次の施策に生かすような体制になっていなかった。まさに打ち上げ花火のような文化が同行にはあったという。

 「オンライン施策の80%は失敗に終わると言われている。だからこそデータに基づいて効果を測定し、デジタル体験をきちんと管理し、次につなげる必要があった」とリチャードソン氏は話す。

 UXの再定義のためにRBSが導入したのが「Adobe Marketing Cloud」だ。40あったコンテンツ管理システム(CMS)を整理統合し、コンテンツと資産管理もシステム化した。Marketing Cloudが備えるタグ管理機能を利用することでコンテンツの再利用が可能となり、顧客体験全体を俯瞰できる。「顧客が何かを始めたとき、目的を完遂したのか、途中でやめてしまったのか、分かるようになった」(リチャードソン氏)。

データの民主化が実現した

 重視したのが、チームによるデータの活用だ。具体的には顧客データを収集・分析するため、「Adobe Analytics」で110以上のリアルタイムダッシュボードを作成。顧客に何が起こっているのかを、全員が知ることができるようになった。これをリチャードソン氏は「データの民主化」と形容する。

 その上でデジタルチームの意識改革も進めた。担当者を「スーパースターDJ」と呼び、クラブのDJが観衆の反応を見ながらかける音楽を変えるように、マーケターは顧客の期待や反応に合わせて提供する体験を適切に変えられる人と定義した。そして担当者には新しいサービスやコンテンツを提供する前に小規模なテストを実施し、ダッシュボードで結果を見ながら改善をするよう義務付けた。ビルボードチャートのように、担当者(=DJ)に成果に応じて順位を付けて競争意識を根付かせる一方、素晴らしい事例は「ゴールドディスク」と呼び、社内評価の対象にしている。

 こうした取り組みは大きな成果につながっている。2014年時点で、わずか2回だった最適化テストの回数は、2015年前半には400回に跳ね上がった。ローン申し込みの30%がモバイル端末からになり、申し込みフォーム入力の完遂率が20%改善された。

 「我々の銀行は300年の歴史があるが、最も重要なのは今の10秒間に顧客がどのような体験をしているのかだ」(リチャードソン氏)。RBSは今後も、データによってそれを理解し、一人ひとりの体験をカスタマイズする取り組みをさらに進化させていく考えだ。