検索連動型広告、DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)を通じたディスプレイ広告、SNS各社の提供する広告サービス──。
こうした広告サービスは運用型広告と呼ばれる。より効率的に顧客の獲得や、ターゲット層にリーチするために、リアルタイムに広告の効果測定をしながら、データに基づいてオーディエンスや広告枠を買い付けていくといった運用が、効果を高める上で肝になるからだ。しかし、アドテクノロジーの発達などにより、運用は複雑化が進む。そのため、ネット専業の広告代理店などに運用を委託している広告主が多いだろう。

だが、こうした広告運用をインハウス化しようという大手広告主企業が、国内でも現れた。全日本空輸(ANA)グループだ。ANAグループの全日空商事は3月1日に、広告運用会社のOffice Kuroko & Co.(東京都渋谷区)と共同出資会社、ANA-Kuroko Strategic Solutions(東京都港区、A-Kross)を設立した。同社は「ANAの運用型広告のオペレーションを一手に請け負う、インハウスの広告運用部隊という位置付けだ」と代表取締役CEO(最高経営責任者)の辛川敬氏は説明する。国内では極めて珍しいケースだ。なお資本比率は全日空商事が51%となっている。
ANAのデータをフル活用できる
新会社設立の理由は大きく2つある。1つは、ANAがネット広告にかける予算の急増だ。「今年度はネット広告にかける予算が、昨年度比で2桁パーセント以上増加している。とりわけ、運用型広告の伸びが大きい」と辛川氏は言う。運用型広告にかける費用の比率が高まる中、より効率的な広告運用が求められている。
もう1つは広告技術の進化だ。広告に関する技術やプラットフォームの高度化が加速している。特に重要性を増しているのがデータの活用だ。DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の登場により、自社サイトのアクセスログや過去の購買データなどを取り込み、広告配信対象のセグメントを作れるようになるなど、データ活用の幅が広がっている。自社の持つデータと、第三者のデータを組み合わせた広告配信の重要性は一層増していくだろう。こうした時代の変化に対応するには、運用組織をインハウス化して、広告主側も知見をためていくべきだと考えた。
また、A-KrossはANAグループゆえに、「接続可能なANAのデータはすべて活用できる」(永田光企画部長)。グループ内のさまざまなデータを使えるだけでなく、「グループ会社だからこそ、旅客の行動の把握など、自然と身に付いているノウハウがある。だから、ANAのマーケティング戦略に沿った広告運用ができる」(辛川氏)と考えている。
例えば、航空券予約のサイトで札幌行きのANAの航空券の座席を照会したが、そのまま離脱した。そうした顧客であれば、検討する期間はおおむね3日以内のため、想定期間のみ対象として広告配信する。こういった、「事業に沿ったシナリオ設計が運用型広告では重要になる。それは外部の企業ではなかなか理解しづらい。インハウス化することで、獲得効率を高められるはずだ」(辛川氏)。
とはいえ、全日空商事も広告運用のプロではない。DSPなどを使いこなせる人材も不足していた。そこで、元々広告運用においてコンサルティングを依頼していたOffice Kuroko & Co.と共同出資会社を設立するという選択をした。同社から、実際に広告運用で手を動かす人材2人を出向という形で迎えている。こうして、ANAの顧客のことをよく知る全日空商事の人材がプランニングを、Office Kuroko & Co.の人材が広告運用を担当するなど、お互いの長所を持ち寄ることでインハウス化を実現した。