エイプリルフールに合わせて企業がウソネタを仕込むようになって久しい。今年は土曜日で“常連企業”の不参加も多く、悪ノリして炎上する企業がなかったのは幸いだが、半面、盛り上がりに欠けた感がある。

 不発の理由は曜日のせいだけではないだろう。ソーシャルメディア上では「虚構新聞」発の傑作ウソニュースが日々拡散し、昨年はイギリスのEU離脱やトランプ大統領誕生など、ウソのような本当の話が相次いだ。大統領就任後もフェイクニュースやオルタナティブファクトが漏れ伝わってくる。森友学園をめぐる問題にしてもどこまでが本当なのか定かではないが、寄付金100万円の信ぴょう性について問われた籠池泰典氏が証人喚問で語った「事実は小説より奇なりでございます」という言葉が今の時代を正確に描写している。

日ごろの広告のすごさが担当者を泣かせた

 企業各社が日頃の広告表現で、限界ギリギリを狙った大胆なクリエイティブにチャレンジしていることも、エイプリルフール担当側にとっては脅威だ。日清食品が昨年暮れに放映したカップヌードルのテレビCM「いまだ!バカやろう!」シリーズの最終回(卒業式篇)では、小林幸子さんの巨大衣装をかたどった“テラ幸子”がビーム誤発射で日清食品本社を爆破。これを受けてカップヌードルのSNSアカウントが、「このような状況となったため、弊社は本日より正月休みとさせていただきます。本年もお世話になり、ありがとうございました」とCM連動を見事に決めてみせた。

 こんな具合に日常接触しているコンテンツのクオリティーが高く、一方で世の中に“ウソ”があふれているため、ちょっとやそっとのネタでは受け手は驚かない。エイプリルフール担当者泣かせの環境にあると言っていいだろう。

 今年の作品を見ていくつか気になった点を言及しておきたい。

1.中途半端なウソは紛らわしい
 「スパリゾートハワイアンズ、『常磐ハワイアンセンター』に名称を変更」というエイプリルフールネタがあった。本当のニュースもウソっぽく見えてしまう4月1日にあって、こちらのリリースは本物?と一瞬思わせてしまう内容だった。タイトル下に「原点回帰」といかにもなキャッチコピーが付き、また運営会社が今なお常磐興産という社名なのだから。本当?と思わせて引き込むことが狙いかもしれない。だが、純金でできた「金風呂」の復活などが軒並みネタと分かると、かえって「実現させる気はないのか」と関心が失望に変わってしまう。

 日本サブウェイの「伊勢海老サンド」ネタも同様だ。ロッテリアが毎年11月29日(いい肉の日)に「松坂牛バーガー」を販売していることと比べると、ネタで片付けてしまうのは残念。実現しても不思議ではないレベルのウソは、取り扱いが難しい。

2.鉄板の複数社コラボレーション
 笑いの質はさほどでなくとも比較的評価されやすいのが、複数社によるコラボネタだ。

 「吉野家がキリンビバレッジと共同で、牛丼の自動販売機を完成」「キリンビバレッジが、牛丼を食べた後に飲む紅茶として吉野家と『牛(ぎゅう)後の紅茶 おいしい無糖』を共同開発」。両社の主力商品に寄せたコラボアイデアは笑いを誘った。

 RIZAPとデアゴスティーニのコラボ企画「週刊『ライザップのベンチプレスをつくる』創刊」は、CM動画作品。分冊式キットで工作すれば2年以上かかるトレーニング器具が、入会すれば利用できるというアピールにはなるだろう。

 かねて仲良しのシャープとタニタのTwitterアカウントは、エイプリルフールに合わせて中の人が入れ替わって会話するという芸当でファンを楽しませた。コミックにもなっている両社(者)は、もはやエンターテイナーである。

3.「ウソっぽい本当」が新しい
 フェイクが乱れ飛んでいる最中のエイプリルフールでは、むしろ「ウソのような本当」の話が好まれるかもしれない。

高島屋が「ウルトラセブン」コラボランドセルを実際に発売

 高島屋は4月1日から発売する2018年度新入学生向けランドセルの商品ラインアップの中で、「ウルトラセブン」とコラボした商品を掲載した。ウルトラセブンを象徴する赤とシルバーの配色で、故郷である「M78 星雲・光の国」にちなみ78点限定販売するという内容。老舗百貨店ゆえにネタかと思われたが、実際に店頭と公式オンラインショップで販売を開始したことで話題になった。

記者個人として今年の大賞を選ぶとしたらこの作品
記者個人として今年の大賞を選ぶとしたらこの作品

 キリンビールのTwitterアカウント(@Kirin_Brewery)が、自らハッシュタグ「#エイプリルフールだけど本音を言う」を添えて4月1日の0時から連投したツイートは圧巻だった。

 「キリンは朝日が大好きです」「キリンは札幌が大好きです」「キリンは輝くオリオンにときめいています」、そして「キリンはトリさんと仲良くしたいです」──。かつて経営統合の交渉が破談になったサントリー(トリさん)が一番最後で、他社よりやや分かりにくいところが、中の人の思いをいろいろ想像させ、唸らせる。

 来年のエイプリルフールは日曜日。普段は言いづらい本音を試してみてはどうだろう?

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