「消臭リキ~♪」のテレビCMでおなじみ、消臭芳香剤「消臭力」や防虫剤「ムシューダ」「米唐番」などの日用雑貨メーカー、エステーが企業メディア「エステーQ」を3月9日にオープンした。2004年から運営している、CM動画やメイキング映像を配信する宣伝部専用サイト「エステー宣伝部ドットコム」(www.st-sendenbu.com)をリニューアルオープンした格好だ。宣伝の枠を超え、さまざまなジャンルのクリエイターが記事や動画コンテンツを配信する、世にない企業メディアを目指す。

エステーQのキャッチフレーズは、「のう天気で面白いニュースサイト」。御託を並べるより記事例を見た方がいいだろう。発明家・藤原麻里菜の「無駄づくり:合コンで一人勝ちできるマシーン編」、写真家・佐藤健寿の「奇界の車窓から:種子島で見つけた『いかのおすし』の件」、食いしん坊編集者・松浦達也の「Qごはん:コメの多様性篇」、桃山商事・清田代表の「胸キュン映画に恋して:橋本環奈がひたすら透明すぎる『ハルチカ』に悶死してきた!」──。
新着記事には、WebクリエイターやYouTuber、恋愛クリエイターやフードアクティビストなどさまざまなジャンルのクリエイターが独自の切り口で自由に発信する記事・動画コンテンツが並んでいる。CM紹介はコーナーとしては健在だが、一見するとエステーの宣伝とは程遠いコンテンツに、サイトが乗っ取られた感すらある。
旧エステー宣伝部ドットコムは、単にCMロングバージョンやメイキング映像を載せるだけではなく、制作秘話や裏話が面白いと評判のサイトだった。2010年には、木村拓哉主演の“月9”ドラマ「月の恋人」のCM枠で、「今日から新しいCMを放送する予定だったんですけど、間に合いませんでした。来週にはできます」とCM女優が撮影現場で説明する映像をオンエア。これを受けて宣伝部サイトで、「特命宣伝部長の高田鳥場(たかだのとりば)がさまざまなことを勘違いしていた」「記念すべき月9ドラマ第一回において、視聴者の皆様に新CMをお届けできなかった」ことを詫びるという奇策が大反響を得た。
このように話題性があり、ネット文脈的に驚きをもって受け入れられるCMがソーシャルメディア上でバズることで、Webニュースがこれを記事化してさらに拡散していくというのが、同社が得意とする宣伝スタイルだ。東日本大震災後にいち早く日常を取り戻すべく放映したミゲル君が唄う「消臭力」のCMや、Twitterがきっかけで歌手の西川貴教さんとミゲル君が共演したCMも、その流れにある。とはいえ当時は斬新だったこの手法は、他社も意識するようになり、同社の独壇場とも言えなくなってきた。
販促目的は薄く、アクセス狙いでもない
そんな背景から立ち上げたのが「エステーQ」だ。特命宣伝部長高田鳥場を名乗る名物宣伝マン、同社執行役エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターの鹿毛康司氏は、新サイト開設の狙いを次のように語る。
「面白い人をつれてきて好きなことをやってもらう。KPIは定めない。ただし企業人格として責任の所在は明確にしておく必要がある。最終責任は私が取る」「販促目的の濃淡とアクセス目標の高低で軸を取れば、販促目的が薄く、アクセス狙いではない、オンリーワンのサイト(笑)」。鹿毛氏はそう煙に巻きながらも、無責任体質とPV偏重が問題を深刻化させたキュレーションメディアとは対照的な立ち位置から、企業宣伝の枠を超えたコンテンツを作って話題を巻き起こしていく覚悟を示す。
差し当たっての目標は、「有名人も含めて『エステーQで書きたい』とたくさんの人に言ってもらえるような、そして優れた作品を表彰して、それが一つのステイタスになるような場にしたい」(鹿毛氏)。開設後3週間の現状では、ニフティの「デイリーポータルZ」風のテイストがどことなく漂う。宣伝色が薄まって自由度が高まったエステーQが、コンテンツ過多なネット状況下でいかに存在感を示すか、またCMに絡んでCMを変えていくか。しばらく注視したいサイトだ。