日曜の夜、ツイート頻出語を示す「トレンド」ワードにNHK大河ドラマの主人公である「真田(丸)」の名が表示されるが、この3月、真田に負けず劣らず目立ったのが「石田三成」だった。
「♪武将と言えば三成~」「1560(イチ、ゴー、ロク、ゼロ)滋賀県生まれ~」──。
昭和の世に見られた、こんなローカル局CM風の石田三成PR動画を、滋賀県が3月5日にYouTubeで公開。「配下に寝首をかかれないか心配で」と悩む主婦に「♪配下にするなら三成~」とお薦めし、豊臣秀吉が「忠義心No.1」と太鼓判を押す場面では「※故人の感想です」というテロップが入り、笑いを誘う。これが大受けして、再生回数は3月31日で100万回を突破した。自治体のプロモーション動画としては異例の大ヒットである。

この動画は、滋賀県が「石田三成発信プロジェクト」の一環として制作したもの。大河ドラマ「真田丸」にも登場する近江の国出身の三成の人物像を広く伝えることで、三成をきっかけに滋賀県の認知度と好感度の向上を目指す企画である。
なぜ今このタイミングで三成だったのか。滋賀県広報課で3月末日までこのプロジェクトを率いた課長補佐の片山昇氏は次のように語る。
「ここ10年近く、『戦国無双』シリーズなど戦国時代を舞台にしたアクションゲームが人気になったり、いわゆる“歴女”が話題になったりと武将への注目度が高まっている。三成はこれまで、関ケ原で徳川に負けた敗軍の将であることから良いイメージを持たれていなかったが、ゲームなどではイケメンキャラとして描かれて、若者ファンが増えつつあった。こうした変化を受けて2014年の春、彦根・米原・長浜の3市が連携して『三成会議』を発足し、三成ゆかりの地をめぐる三成タクシーやツアープラン、食事メニューを企画している。県としても、三成ブームを起こして県の魅力の発信と観光客の増加を目指そうと考えた」
県は地方創生事業の一環として約3700万円の予算を組み、今年1月末から三成プロジェクトの展開を開始。三成情報を発信する「石田三成×滋賀県」ポータルサイトを立ち上げ、3月5日には東京駅直結の商業施設「KITTE」にて大河ドラマで三成役を演じる俳優の山本耕史さんを招いたキックオフイベント「近江の将 石田三成出陣式」を開催した。そして同日、YouTubeに公開したのがこの動画である。
クレームを恐れず、ネットで刺さることを優先した自治体の決断が奏功
官庁・自治体はもちろん、一般企業でもストップがかかりかねない“ゆるすぎる”動画を手がけたのは、電通関西支社所属のクリエイター、藤井亮氏。UHA味覚糖の「ぷっちょくん」など、これまでもユニークなクリエーティブを手がけてきた人物だ。とはいえ、それほどのクリエーターでも、通常は自治体の仕事となると、保守的で“堅く”なりがちだ。今回、自治体の殻を打ち破るPR動画が生まれた理由として片山氏は、「打ち合わせの場で『ネットで刺さるものを、振り切って作ってほしい』と依頼し、それに応えていただけた」ことを挙げる。
「三成公をバカにするな」といったクレームがくるかもしれないという不安を抱えながらも、自治体側が腹をくくったことが奏功した。YouTube動画広告のTrueView出稿やタイアップ記事を準備していたものの、「Spotlight」や「BuzzFeed」などのバイラルメディアで紹介されると一気に再生回数が伸び、広告出稿ゼロで100万回に到達する快挙を達成することになった。
動画効果と思われる成果も早くも出ている。3月26日に滋賀県立大学で開催したシンポジウム「三成フェス」では、一般参加者500人を募集したところ予想を超える800人超の応募があった。しかも、「県外からの応募者は(これまでこうしたシンポジウムにあまり関心を示さなかった)20~30代の女性が中心だった」(片山氏)という。
3月27日には、PR動画第2弾として短編CM6本を公開。「膨らみすぎた年貢に悩んでる方はいませんか」という消費者金融の過払い請求相談CM風や、「勘定奉行」CM風、「レイクビュー佐和山城(跡)」という行楽地CM風など、第1弾に勝るとも劣らない振り切りぶりに、悶絶する視聴者が続出している。
YouTube動画第1弾は「高く評価」が4000件超、「低く評価」が130件弱と、実に好反応が97%を占めている。やや悪ノリ含みながらも、義に厚い三成の魅力を、知らない人に面白く分かりやすく伝える意図がしっかりと感じられるところが、ネガティブ反応を引き起こさずに再生回数を伸ばした勝因といえるだろう。
県としてはこの盛り上がりを、3市が5月から開催する「MEET三成展」の集客につなげて観光客を増やしたい考え。「最終目標は三成が大河ドラマの主役になること」(片山氏)と意気込む。