気象庁によれば、今冬は全国的な暖冬だった。昨年12月から今年2月までの平均気温は、平年と比べて東日本で1.4度、西日本でも1.0度高い。この暖冬による雪不足により、大打撃を被ったのが各地のスキー場だ。とりわけ多数のスキー場を抱える新潟県への影響は大きかった。同県が3月9日に発表した、12~1月の県内スキー場の来場客数の暫定値は、前年度比13.5%減となる199万8940人だった。

 このような厳しい環境に置かれながらも、売り上げを伸ばしたのが、新潟県南魚沼郡にある神立高原スキー場だ。「当社が運営する神立高原スキー場の1月の売り上げは、前年同月比で60%増加した」とマックアース(兵庫県養父市)の越山進一CMO(最高マーケティング責任者)は胸を張る。同社はリゾート施設の再生事業を手掛ける。客不足で営業停止に追い込まれた神立高原スキー場の営業権を2013年に取得。2015年度から営業を再開した。

 営業再開に当たって求められたのは集客だ。マックアースはこれまで、小規模のスキー場を再生する場合、ソーシャルメディアなどを活用し、コストを抑えながら集客してきた。ただ、「神立高原スキー場は比較的大きめのスキー場。ソーシャルメディアに加えて、広告を活用しなければ集客は難しい」と越山氏は考えた。

 ただし、テレビCMを投下するほどの宣伝広告費はない。そこで、マックアースはデジタルマーケティングに注力した。「テレビCMよりも広告費を抑えながら、スキーに関心のある人に広くリーチできる可能性がある」(越山氏)のがその理由だ。前シーズンの2015年度は、自社サイトのSEO(検索エンジン最適化)対策強化や、Facebookの広告サービスを活用したファンの獲得と情報発信などによる集客を実施した。その結果、最終的に、営業停止前を超える集客につながった。

 ただ、課題も残った。それはネット広告が、実際にどの程度の集客につながっているのか分析しづらいというもの。ネットで情報を発信してリアルの店舗などに誘導する、いわゆるO2O(オンラインtoオフライン)を狙う企業の多くが直面しているのと同じ課題だ。そこで今シーズンの2016年度は、この課題に対して、効果をきちんと測定できるように施策を組み立てた。

電子スタンプで来場を把握

神立高原スキー場が活用した電子スタンプカード
神立高原スキー場が活用した電子スタンプカード

 オンライン経由で獲得した見込み客が、実際にスキー場に来場したかどうかを把握するために用意したのが、電子スタンプカードだ。スタンプカードは、神立高原スキー場のWebサイトで会員登録することで、取得できる。会員は、スキー場に掲示されているQRコードを、一般的なスマートフォンのバーコードリーダーアプリで読み込み、スタンプを貯められる。スタンプを3つ貯めるごとに、リフト券がもらえる仕組みだ。

 会員登録時には性別、年代、居住地、スキーとスノーボードのどちらに関心があるか、といった項目を入力してもらう。また会員登録後も、サイト訪問時にランダムで、スキーやスノーボードに関するアンケートを実施する。これまでほとんど分からなかった神立高原スキー場の利用客層を、データから分析するのが狙いだ。

 さらに、この会員IDとCookie(クッキー)をひも付けることで、広告接触や来場の有無といったデータを包括的に蓄積できるようにデータベースも整えた。これにより、会員がどの広告に接触して登録したのか。また、その後に実際に来場したか、来場した場合は何度訪れたかといった顧客の行動をまとめて分析可能にした。

 こうして、精緻な効果測定を実現するための基盤を整えた上で、ネット広告を活用した集客策に取り組んだ。その際、「雑誌広告の費用を減らすなどして、ネット広告の広告予算を大幅に増やした」(越山氏)。

 広告施策は大きく2つの方針を立てて取り組んだ。まず、集客効果が高いと推測される媒体への出稿強化だ。自社サイトのアクセス解析データから、スキー場や積雪の情報サイト「SURF&SNOW」経由の訪問率が高いことが分かっていた。そこで、同サイトへの広告出稿を強化することで、さらなる集客を狙った。

 もう1つが、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を活用したオーディエンスターゲティングによる広告配信だ。配信方法としては、自社のデータと他社の持つデータの両方を活用している。

 自社データの活用では、DMPに蓄積した会員属性やWebサイトのアクセスデータといったファースト・パーティー・データに基づいて、自社サイトの会員と近しい人を類推して配信する、オーディエンス拡張を利用した。

 外部事業者のオーディエンスデータに基づくターゲティング広告の配信にはマイクロアド(東京都渋谷区)のDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)「BLADE」を活用した。マイクロアドの持つ第三者データを基に、スキーやスノーボードに関心がある人をターゲットに広告を配信した。

 広告を運用する上で、会員登録、すなわちスタンプカードの取得をコンバージョンポイントに設定。単にUU(ユニークユーザー)を増やすのではなく、CPA(会員獲得単価)で効果を見ることで、来場する可能性が高い層の獲得を目指した。

用具のレンタル利用も売り上げ8割増

 その結果、約6000人が会員登録した。さらに、来場者を分析すると、会員登録者の半数以上が来場していると分かった。「休日は平均4000人が来場するが、多い時はその10%超がスタンプを押してくれる。昨年度は延べ15万人が来場したが、今年度は18~19万人の来場者になりそうだ」(越山氏)と見込む。来場者の増加によって、スキー・スノーボード用具のレンタル利用も80%増になるなど、大幅な売り上げ貢献となった。

電子スタンプを押した会員数の推移
電子スタンプを押した会員数の推移

 また、登録者の12.7%を神奈川県在住者が占めていた。「圏央道が開通したことで、神奈川からも来場しやすくなったことが要因だと考えられる。これまで神奈川県は、集客する上であまり対象としていなかったが、来年度からは強化することを検討していく」(越山氏)など、来年度以降の戦略の立案にも役立つデータが取得できている。

 リピート率の分析からは、スタンプ取得者が平均2.5回、スキー場に訪れていることも分かった。こうしたデータは単体で見た場合、良し悪しは判断できない。だが、来場率やリピート率といった、売り上げへの貢献が分かりやすい指標が作れた意味は大きい。来年度以降は、今年度の数値を比較対象に設定して、来場客数やリピート率の向上を目指すことで、より売り上げへの影響を増していくことができるはずだ。

 また、会員という顧客リストを持ったことで、CRM(顧客関係管理)にも取り組める。今年度に取得したリフト券は来年も使えるようにして継続利用を促すほか、シーズンオフ期間の情報発信などにも取り組んでいく計画だ。

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