世界中から年間4200万人もの観光客が訪れる米ネバダ州ラスベガス。その中心にあるストリップ地域沿いの施設の、実に45%を所有しているのが米総合リゾート大手、MGMリゾーツ・インターナショナルである。同社は「MGMグランド」や「ベラージオ ラスベガス」など合計4万5000室のホテルのほか、100のレストラン、20のショーなども展開している。
そのMGMは現在、会員のホテル利用履歴データと位置情報などを活用して、ラスベガスを訪れた顧客に、レストランや小売店の情報などのコンテンツをパーソナライズした形で提供。CS(顧客満足度)とLTV(顧客生涯価値)の向上につなげている。このマーケティング施策のインフラとして利用しているのが、2013年に導入した米アドビの「Adobe Marketing Cloud」である。
実はMGMは2013年時点で既に会員向けのロイヤリティープログラムを展開していた。だが、利用履歴などに基づくパーソナライズは実現できておらず、多様化するデバイスへの対応も課題だったという。「顧客が何をしたいのか、どんな情報を探しているのかを理解し、必要な情報を(パーソナライズして)配信する仕組みが必要だった」。MGMの収益最適化担当バイスプレジデントであるジェフリー・ワルトミュラー氏はそう振り返る。
MGMがまず着手したのは、18あるWebサイトのタグの整理と階層化だった。分析ツール「Adobe Analytics」のタグ管理機能を活用し、6週間で完了させた。この改修で入手できるようになったデータを活用して、パソコン向けとスマートフォン向けサイトを再設計し、Webサイトデザインのトレンドの1つである「タイル・デザイン」を導入した。サイト上に「ホテル予約」「イベント予約」といった用途で分類したタイルを複数配置し、タイルをクリックすると詳細ページへと誘導される仕組みである。
ログインしなくても情報を出し分けられる工夫
提供する情報のパーソナライズには、会員の過去の利用履歴データも使っている。「情報の出し分けには、顧客のコンテキスト(文脈)を読み解くことが重要だ。会議で訪問しているのか、パーティーか、リゾート利用かで、探している情報は異なるためだ」(ワルトミュラー氏)。そこで同社のロイヤリティープログラム「M Life」のログインボタンをサイト上部の目立つ位置に配置。ここからログインしてもらうことで、その会員の予約状況や、過去にどのようなタイプのホテルに宿泊したのか、といったデータから表示コンテンツをパーソナライズしている。
ユニークなのは、ログインをしなくても、“現在”、その会員がラスベガスへの訪問前なのか、ホテルに滞在中なのか、あるいは滞在した後なのかをプルダウンメニューから選択してもらうことで、それぞれの状況に合った、適切なコンテンツを出し分ける機能を持たせていることだ。
MGMはスマートフォン向けアプリも提供している。だが、こうした工夫で、アプリをまだダウンロードしていない人にも、ダウンロードはしていても使ってくれない人にも、さらにはログインすらしてくれない人にも、情報を適切に出し分けることができる。アプリを提供していても、なかなか利用してもらえない企業にとって、一考に値するアイデアだと言えよう、
「我々のリゾートは世界最高で、対面による接客を重視している。だが、接客はアナログなサービスであり、顧客が必要とする情報を、全員に提供できるわけではない。MGMでの素晴らしいリゾート体験を、いつでも、多くの人に体験してもらうには、デジタルの導入が必要だった」(ワルトミュラー氏)。MGMは今後も情報のパーソナライズの度合いを高め、顧客満足度とLTV向上につなげていく考えだ。