ここ1年ほど、若い女性のTwitterやInstagramアカウントで、犬やうさぎをはじめとする動物の耳やヒゲなどのパーツを、スマートフォンのカメラで撮影した顔写真・動画に盛りつけた画像をよく見かけるようになった。写真の加工には、若い層に急速に普及したコミュニケーションアプリ「SNOW」が使われている。この“動物なりきり”アプリの人気に目を付けたのが、ロッテの人気チョコレート菓子「コアラのマーチ」だ。
コアラのマーチは1984年発売のロングセラー商品で、自社調査で認知率が9割を超えるほど十分な知名度がある。主な購入層は、幼児~小学生の子どもがいる世帯と、10代の女性が中心だ。親と一緒に買い物に来た子どもが「欲しい」とねだって買い与える、そんなシーンが30年以上続いてきた。また、女子高生の間では「まゆげのあるコアラが入っていたら幸せになれる」といった都市伝説も長らく語り継がれてきた。
とはいえ購入層の人口は減少傾向にあり、激戦の菓子類で棚の一角を維持するのは、高い知名度があっても容易ではない。「ロッテ コアラのマーチ♪」のフレーズでおなじみのテレビCMは健在だが、子育てに忙しい世代や女子高生にCMは以前より届きにくくなった。

そんな中、デジタルマーケティング施策を担当する同社マーケティング統括部宣伝部コミュニケーション戦略室デジタル推進チームの柏原成美氏が注目したのが、SNOWアプリだった。SNOWは昨年まず若い女性に普及し、「夏の帰省シーズンの頃、親子のコミュニケーションツールとしても使われるようになり、利用者層のすそ野が広がった」(柏原氏)。このため、コアラのマーチの主な購入層をカバーするアプリとして一躍魅力的なツールになった。動物になりきるアプリという点でも、コアラのマーチと相性は抜群だ。
SNOW内でコアラのマーチスタンプを配信する「コアラのマーチ×SNOWコラボ」は、昨年12月から今年3月まで、3つのイベントに合わせて企画した。第1弾は12月12日からチアガールコアラが応援する受験応援企画。第2弾は1月17日からハート型をあしらったコアラのスタンプが使えるバレンタイン企画。そして第3弾は2月15日からひなまつり企画として、おひなさまコアラのスタンプを配信した。
SNOWスタンプのダウンロード数は想定の倍に
反響は上々だった。食品・飲料メーカーとSNOWのコラボ企画としては、日本コカ・コーラの果実飲料ブランド「Qoo」が昨年9月に一番乗りしたが、ダウンロード数はコアラのマーチが圧倒したようだ。「第1弾のダウンロード数は想定の倍以上、第3弾は一時的にアクセスしにくくなるほどの人気だった」(柏原氏)という。
第1弾の受験応援は、コアラが「寝ていても木から落ちない」ことから長らくゲン担ぎアイテムとして人気があり、毎年受験シーズンに期間限定商品「めざせ合格!コアラのマーチ」を発売していることに合わせた企画だった。正月シーズンだったこともあり、スポーツの応援でもよく使われていたという。また第3弾については、同社が2月7日にLINE公式アカウントを開設し、2月14日からLINE用のコアラのマーチスタンプを無料配信した際に、SNOWとのコラボ企画についても告知したことで、利用が大きく伸びた。
SNOWコラボ施策は、売り上げにも少なからず貢献したようだ。商品パッケージを自発的に手に持って、コアラSNOWスタンプで加工した写真や動画をアップしているケースが散見されたほか、画像投稿に合わせて「(コアラのマーチを)久しぶりに買った」「久しぶりに食べたくなった」といったコメントが多数添えられていた。
視聴行動分析サービスを提供するニールセン デジタル(東京都港区)の調査によると、2017年1月のSNOWの国内利用者数は408万人で、半年前の2016年7月(322万人)から27%増加している。2年前の2015年1月のInstagram利用者数が479万人で、利用者規模や属性が類似していることから、まだ伸びしろがありそうだ。
むろん、流行りのツールに乗りさえすれば目論見が当たるわけではない。LINEでも、宣伝臭が強すぎるスタンプは無料で配信しても使われにくい。コアラSNOWスタンプは、「カワイイ」「盛れる」と評価が高かったことが、ユーザーの利用を後押しした。LINEのコアラスタンプも、OKを意味する「おけまる」や、うれしいを意味する「うれしみ」などの若者言葉や、一部に関西弁を採用したことで、会話の流れで使いやすいと評判だ。スタンプ施策では、使われる文脈に沿ったクリエイティブに仕上げられるかどうかが成否のカギを握りそうだ。