ローソン:キャンペーンシステム
ランニングコスト増加が課題、キャンペーンのLPも内製化

 複数のマーケティングツールを活用していると、裏側のデータが統合されないままになる──。デジタルマーケティングの手法やプラットフォームの多様化は、こうした課題を浮き彫りにし始めた。ローソンもそうした課題に直面していた1社だ。「さまざまなマーケティングツールを利用していたが、それぞれログインIDが異なるし、運用コストもかかる。データも一部は統合されておらず、バラバラだった」(業務統括本部デジタルプラットフォーム部営業戦略本部広告販促部の白井明子マネージャー)。

 キャンペーンの数も年々増加傾向にあった。その要因の1つは、連携サービスが増えたことだ。ローソンは以前から共通ポイントサービス「Ponta」を導入していたが、昨年秋にNTTドコモの共通ポイント「dポイント」との連携も発表した。複数のポイントサービスに加入すれば、ローソンの商品と引き換えられるクーポンがもらえるキャンペーンなどの数も増加する。「手数が増えて、マーケティングサービスを利用するランニングコストが上昇していた」(白井氏)。それに加えて、キャンペーンのたびにサービス提供会社に施策の実施を依頼することになるため、スピードも鈍る。

 そこで、「データの統合」「ランニングコストの削減」、それに「キャンペーンを回すスピードの向上」を目指してローソンが選んだ道が、キャンペーンシステムの自社開発だ。

 ローソンもエンジニアを積極的に採用しており、開発部隊は数百人規模だという。しかしこれまでは、マーケティングとIT部門の双方を理解し、コミュニケーションを円滑にする役割を担う人材がいなかった。白羽の矢が立ったのが白井氏だ。マーケティング部門を8年経験した後に、昨年、IT部門へ異動した。同氏がマーケティング部門との架け橋となり、エンジニア3人と開発したのが、キャンペーン向けのプラットフォーム「ローソン・デジタル・キャンペーン・パッケージ」だ。

 このプラットフォームは、利用するマーケティング担当者が自ら設定し、プレゼントキャンペーンやメールマガジンへのアンケートなどを実施できる仕組み。担当者は管理画面から配布したいクーポンやサンプリングで配布したい人数を設定するだけで、すぐにキャンペーンを実施できる。キャンペーンはすべて、ローソンの会員IDにひも付いて実施されるため、どの会員がどのキャンペーンに参加したのか、どのクーポンを利用したのかといったデータもすべてIDにひも付く形で蓄積される。

 例えば、3月2~3日にかけて募集した、飲料商品の「グリーンスムージー」と「パープルスムージー」が抽選で1000人に当たるキャンペーンも、同プラットフォームで実施された。プラットフォームには抽選のロジックも組み込まれているため、担当者は当選者数などを設定するだけで、実行できる。

 また、キャンペーンのランディングページ(LP)についても内製化を進めている。ローソンは、広報ブログや商品ブランドのブログなど複数のブログを運営しているが、以前はバラバラに動いていた。それらを「ローソン研究所」というサイトに集約した。同サイトはCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)の機能を持つため、簡単なLPであればブログの記事を作る要領で制作できる。こうして、キャンペーンの設定からLPの制作までを一括して内製化することで、キャンペーンを回すスピードが大きく向上した。

 機能開発は今も続いている。近日中には新たに、写真投稿キャンペーンを実施できる機能が加わる。キャンペーンは、Twitterに特定のハッシュタグ(#)を付与して投稿してもらい、クチコミの拡散を狙うと同時に、そのハッシュタグの付いた写真を収集してLPに掲載するといったタイプと、投稿してもらった写真を自社のサーバーに蓄積するタイプの両方に対応する。今後も開発を継続して行い、キャンペーンプラットフォームで実行できるキャンペーンの幅を広げる。

 また、東急ハンズ同様にローソンも、1月にコンサルティング会社のシグマクシスと共同出資して、事業のデジタル化の推進と次世代システムの構築と運用を目的としたIT子会社ローソンデジタルイノベーションを設立した。今後も、この子会社と連携しながら、マーケティングツールの開発を推進していく方針だ。

一休:レコメンドシステム
社長自らプログラミング、ロジックのカスタマイズが肝

 宿泊施設と飲食店予約サービスの一休は、レコメンドシステムを自社で開発している。しかも、榊淳社長自らもプログラムを書くという極めて珍しい開発スタイルである。

 レコメンドシステムは、専門の開発会社がしのぎを削る分野。激しい競争を勝ち抜くため、各社はより精度を高めようとレコメンドのアルゴリズムに磨きをかけている。にもかかわらず、一休はなぜ自社開発のレコメンドシステムにこだわるのか。その答えは明快で、自社開発のレコメンドシステムの方がパフォーマンスが良いからだ。

レコメンドシステムを自社開発する一休
レコメンドシステムを自社開発する一休
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 開発に当たっては、さまざまなレコメンドシステムの開発会社に話を聞いたという。「その結果、ロジックはどこも似ていることが分かった。また、専門会社の開発したシステムはさまざまな業種に対応しようとするため、汎用的になりがちだ。そのため専門性の高い分野ではパフォーマンスが下がってしまう」と榊氏は指摘する。

 この指摘は実証されている。榊氏はレコメンドシステムの導入に際して、自ら開発したレコメンドシステムと専門会社のレコメンドシステムの、2つのうち、どちらの成果が高いかを比較した。比較には過去のサービス利用データを利用した。

 まず、ある時点の、ある顧客のサービス利用データやアクセス解析データを、2つのアルゴリズムに取り込む。仮に過去2年間のデータを利用したとすれば、最初の1年のデータを取り込む。このデータに基づいて、その顧客が関心を持つであろう宿泊施設の候補を挙げる。次に、その翌年のデータを用いて、その顧客が候補の宿泊施設を実際に利用したどうかを見たのだ。

 「レコメンドは過去のデータからその顧客が今後、取るであろう行動を予測するもの。だから、過去のデータを用い、その顧客が何を予約するかを予測したうえで実際に予約したかどうかを見れば、サイトに導入しなくても、精度が高いかどうかはある程度分かる」(榊氏)。

 こうして比較した結果、自社開発のレコメンドシステムの方が1~2割程度、レコメンドの精度が高かったという。そこで、自社開発のレコメンドシステムを導入した。このレコメンドシステムは、一休のサイト上にお薦め商品を表示するだけではなく、検索結果の表示の順番やメールマーケティングを展開する際などにも、活用している。

 「根幹のロジックだけを見れば専門会社が開発したものの方が精度は高いだろう」と榊氏は言う。しかし、自社の事業に合わせてカスタマイズしていく段階で、差が表れる。例えば、取り扱う商品の特性を鑑みた場合、書籍やCDなどであれば、商品を購入した顧客に全く同じ商品を薦めても購入する可能性は極めて低い。一方、一休の取り扱うホテルやレストランでは、リピート利用する顧客も少なくない。

 しかも、ホテルや飲食店でも地域によってリピート率に差がある。リピート率の高い地域でイメージしやすいのは京都だろう。一方、平日の個人利用は出張の可能性が高いため、レコメンドの対象にはなりにくい。また、旅行は検討期間が長いため、1週間前の閲覧履歴は重要なデータだが、飲食店の場合は1週間前のデータはほとんど意味をなさない。こうした細かなロジックを積み上げていくことで、一休のレコメンドシステムは事業モデルに合致し、成果につながっている。