Google/YouTubeとFacebookの主戦場が、本格的にテレビ市場に移って来た。今年2月末にGoogleが満を持して、CBS、ABC、NBC、FOX、ESPNなどの大手ネットワークテレビ局、ケーブルテレビ局の約40チャンネルの番組を月額35ドルで見られる「YouTube TV」サービスを発表した。このGoogleの発表に先立って同月にFacebookもテレビ画面向けの動画視聴アプリを発表し、「Apple TV」や「Samsung Smart TV」、「Amazon Fire TV」での動画視聴を可能にすると発表している。

 連載第1回でお伝えしたが、米国のネット経由でテレビを視聴するOTT(オーバー・ザ・トップ)市場は、AT&TやVerizonなどのテレコム企業と、ComcastやCharterなどのケーブル回線企業、DirecTV(AT&T)やDish TVなどの衛星放送企業が月額40ドル~50ドルで数十のチャンネルが見られるサブスクライブ(定額視聴)事業を開始している。

図1 時価総額による番組コンテンツ投資企業の比較(2017年2月時点)
図1 時価総額による番組コンテンツ投資企業の比較(2017年2月時点)

 今回この市場にGoogleとFacebookが参入を発表したことで、旧来のテレビは放送電波やケーブル配信、衛星配信を経由して見るものから、本格的にネットを介したWiFiのモバイル環境で見るコンテンツへとシフトする。すでに「Prime Video」として参入しているAmazonに加え、GoogleとFacebookの巨大資本がテレビコンテンツ市場に目に見える形で移って来たインパクトは非常に大きい(図1)。

 Googleは2012年当時にYouTubeでのチャンネルコンテンツを開発するクリエイターを育てるために約2億ドル(約220億円)の予算を投下し、オンラインビデオ市場を育てた経緯がある。以来YouTube内には無数の「チャンネル」コンテンツが立ち上がり、「マルチ・チャンネル・ネットワーク(MCN)」というチャンネルを束ねる事業形態も登場した。今回のYouTube TVの発表はコンテンツの新芽を育てるレベルを超え、CBSやABCなどのすでに価値の付いた「プレミアム番組」の市場を広げる動きだ。

Facebookは「動画ファースト」へ

 先発するGoogle/YouTubeに追いつくべく、Facebookも昨年から人気コンテンツを自社プラットフォームで立ち上げるための投資を本格化している。マーク・ザッカーバーグによる「動画ファースト(Video First)」の掛け声の下、Facebookは今年2月、アプリにおける動画の仕様を変更し(例えば、音声オンをデフォルトにする、縦フルスクリーン再生に対応するなど)、プレミアムコンテンツを視聴しやすいような環境づくりを発表した。

 さらにFacebookは昨年、コメディーサイトで人気の「Collegehumor」の共同創業者をヘッドハントし、さらに今年2月には音楽チャンネル局「MTV」の番組編成の有名プロデューサーを招き入れている。オンラインビデオの起業家やテレビ業界のトップを招いて自社プレミアムコンテンツ製作に取り組んでいるのだ。Facebookによる、これらのビデオにまつわる2017年の資本投下は、昨年予算を50%上回る75億ドル(約8300億円)と予想されている。

 この現象について、日本の広告主が考えておくべきことは、新しい事業指標となる「テレビ&ビデオコンテンツ共通の視聴指標」を自社で確立することと、既存の広告枠にとらわれない「プレミアム&ネイティブコンテンツを確保」することだ。

 テレビ&ビデオコンテンツ共通の視聴指標の確立は、喫緊の課題だ。放送が発祥であったテレビと、ネットが発祥のオンラインビデオとの境目がなくなっているのは周知の事実。旧来のテレビ視聴率やGRP(延べ視聴率)と、ネット上の動画再生インプレッションの共通指標はNielsenとcomScore/Rentrakがそれぞれの強みである、テレビ側の指標とデジタル側の指標との主導権を争っていた。

図2 Facebookは昨年9月、広告主向けヘルプセンターで指標の計算間違いを謝罪
図2 Facebookは昨年9月、広告主向けヘルプセンターで指標の計算間違いを謝罪

 そこにFacebookが2016年秋頃、動画の視聴完了数やオーガニックリーチなどの複数の自社発表の指標について、計算方式が間違っていたことを“自首”し、計測指標のオープン化戦略を取り始めた(図2)。現在ではFacebookはNielsenやcomScoreなどのサードパーティーによる検証と、メディアレーティング評議会(MRC)から承認を取る、透明性の確保を打ち出している。これらは全てテレビ進出のための地固めだったのだ。

 オンラインビデオ市場の先駆者であるGoogle/YouTubeは、巨大なWalled Garden、つまり閉じた世界であるのに対し、FacebookはNielsenやcomScoreらを採用した開かれたサードパーティー指標の構築を目指す。広告主はこれまでのテレビ視聴データの知見に加え、さらにGoogle/YouTubeやFacebookが提供する「マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)」のプラットフォームの理解が必要になる。すでにFacebookのMMMは150以上のブランドが試験採用を開始した。

プレミアム番組におけるネイティブ広告

 番組を提供するテレビ局もデータ武装が急務だ。自社のプレミアム(番組)コンテンツがGoogle/YouTubeやFacebookなどを通じたプラットフォームでの分散露出が増えることに比例して、自社のコンテンツ価値がテレビ画面上でのCM枠の視聴率だけでは計測しきれない状況にある。テレビ局は、視聴者側がOTT配信による有料サブスクリプション形式で視聴する形態に移ることで、CM視聴に頼らない「番組ネイティブ広告」の販売を強化したり、分散配信された番組そのものの視聴指標が必要になる。例えば、Nielsenの「Total Content Ratings」などだ。

 こうした背景から、コンテンツを確保したいプラットフォーム側と、販売する番組コンテンツの価値を引き上げて広く配信したいテレビ局側の思惑の接点が、プレミアムな「ネイティブコンテンツ」への人気となる。広告主は自社が肩入れするコンテンツの確保が求められる。

 オンライン上のビデオ広告枠の在庫は今後増大し、CM広告枠はリーチとアテンション用としてプログラマティック配信が進む。その一方でネイティブ枠となる「プレミアム番組」には限りがある。プレミアム番組(ネイティブ広告)は態度変容に効くと理解したユニリーバ、P&G、モンデリーズ、ペプシなどの大手消費財広告主が、すでに自社特有のプレミアム番組の確保にCM予算をシフトさせている。巨人Google、Facebookのビデオコンテンツに向けた資本投下は広告主側の自社指標の確立と、プレミアム番組の確保で先手が打てるかどうかが試される。さもなくば増え続ける「CM広告枠」をひたすら買うだけの施策に追いやられるだろう。