■【特集】2020年のマーケティング
前編 動画広告もAIで自動作成できるようになる
中編 SNSは企業のブランディングに活用できるツールになる
後編 消費者がまだ気付いていない需要の喚起がECの役目に

EC:
利用者のエンゲージメント獲得が競争の焦点に

 4つ目のテーマはEC(電子商取引)。2020年のECについて、楽天の元幹部で、現在はメディア型ECモール「KABUKIペディア」を運営するKABUKI(東京都千代田区)の大城浩司・代表取締役兼CEOに見通してもらった。

大城 浩司 KABUKI代表取締役社長兼CEO<br>沖縄生まれ。約1万6500m2の大型ショッピングセンター勤務を経て、2001年楽天入社。営業本部長などを経て、2014年ICA.inc設立。2015年10月KABUKIを設立し現職。2016年5月にメディア型ECモール「kabuki ペディア」を発表
大城 浩司 KABUKI代表取締役社長兼CEO
沖縄生まれ。約1万6500m2の大型ショッピングセンター勤務を経て、2001年楽天入社。営業本部長などを経て、2014年ICA.inc設立。2015年10月KABUKIを設立し現職。2016年5月にメディア型ECモール「kabuki ペディア」を発表

 「日本でもECの市場は今後も伸びる。現在、BtoC(消費者向け)ECの国内市場規模は約15兆円強。EC化率は5.4%だ。2020年のBtoC市場のEC化率は、現在の米国と同等の7%に届き、その後、10%まではすぐに伸びるだろう。

 2020年のECサイトは、現在のMA(マーケティングオートメーション)とコンテンツマーケティングの機能を併せ持ち、商品やサービスの価格や機能、品ぞろえだけでなく、それらの背後にある“ストーリー”まで消費者に訴えかけ、エンゲージメントを獲得することを目指すようになるだろう」

 大城氏はこの方向性を理解するための例として、ふるさと納税の増加を目指す、ある自治体の取り組みを挙げる。

 「ふるさと納税の認知度そのものは高く、ある調査では全体の90%を超える。しかし、実際にふるさと納税を実行している人は、同調査では国民全体の10%にも満たない。この状況で、他の自治体ではなくわが自治体を選んでふるさと納税をしてください、と言っても、納税者はそれほど増えないだろう。

 そう訴えかける以前に、ふるさと納税をすると得だと理解してもらう必要がある。消費者の心理を考えたら、例えばクレジットカードを利用した際に得られるポイント還元率と比べて、ふるさと納税の還元率は段違いに良いとしっかり示せば、関心を示してくれる消費者は増えるはず。

 ECも同じだ。商品やサービスを販売する前に、消費者が関心を寄せるストーリーを、魅力的なコンテンツを使って示すことが重要になる。そうして消費者のエンゲージメントを獲得できたEC事業者が、消費者に強く支持されるようになる」

 こうしたストーリーを見いだすために必要になるのは、データを蓄積し、AIなどを活用して分析すること。ただし、消費者の行動履歴や商品情報、購買履歴などを蓄積し、単純に分析しただけでは、決して十分ではないという。

 「過去のデータを蓄積し、分析すれば欲しがっているものを見つけられるし、販売すれば売り上げは上がる。だが、それは当たり前。将来のECに求められるものは、消費者がまだ気づいていない潜在的なニーズを掘り起こして、『おおっ、こんな商品やサービスがあったのか』と気付いてもらい、購入してもらうこと。言い方を変えれば、消費者の欲を刺激し、需要を喚起することだ。

 大手のEC事業者は今、小売りの中で最も消費者のデータを持っていると言ってよい。2020年に向けて、EC事業者が意識を持ってデータを蓄積し、分析して魅力的なストーリーとコンテンツとしてアウトプットできるかが問われる」

 2020年にはEC事業者同士の競争は意味を持たなくなるともいう。

 「消費者のデータを大量に抱えているのは、日本では楽天、アマゾン、ヤフーの3社で、他のEC事業者はこの3社と正面切って勝負するのは既に難しい。その意味で競争の結果はもう出ている。一方、ユーザーも、どれか1つのECサイトだけを利用するのは少数派。必要に応じて使い分けているユーザーのほうが多い。3社以外のEC事業者の多くは、3社に商品を供給してプラットフォームとして利用しながら、自社でもECサイトを運営して、ユーザーのエンゲージメントの獲得を狙う。日本のEC市場はそういう形に収れんしていく」

 そうなったとき、大手EC事業者の競合相手はどこになるのか。大城氏は「GoogleやFacebookが日本の大手EC事業者の本格的なライバルになる」と予測する。

 「消費者の心理などを先読みすることでエンゲージメントを得ようとしているのは、GoogleやFacebookも同じ。それができれば広告効果が高まり、自身の収益増につながるからだ。GoogleやFacebookが持っていない消費者データを大量に抱える大手EC事業者は、本気になればGoogleやFacebook以上に消費者のLTV(顧客生涯価値)を高めることができると思う。ここ数年で、どこまで本気になるかが問われる」と大城氏は語る。

ユーザーインターフェース:
AIスピーカーがUIの主役になる可能性も

 5つ目のテーマはユーザーインターフェース(UI)。2020年にはどう変化しているか。ハウステンボス取締役CTO(最高技術責任者)、ハピロボ代表取締役として、人間を幸福にするロボットを開発している富田直美氏に聞いた。

富田 直美 ハウステンボス取締役CTO(最高技術責任者)兼hapi-robo st(ハピロボ)代表取締役社長<br>外資系IT企業の日本法人社長など9社の経営に携わり、財団法人日本総合研究所理事、社会開発研究センター理事、アジア太平洋地域ラジコンカー協会(FEMCA)の初代会長などを歴任。多摩大学客員教授
富田 直美 ハウステンボス取締役CTO(最高技術責任者)兼hapi-robo st(ハピロボ)代表取締役社長
外資系IT企業の日本法人社長など9社の経営に携わり、財団法人日本総合研究所理事、社会開発研究センター理事、アジア太平洋地域ラジコンカー協会(FEMCA)の初代会長などを歴任。多摩大学客員教授

 「最近、本格的に登場してきたAIスピーカーなど音声を使ったUIの普及は今よりも進む。その理由の1つは2020年、場合によっては2019年から、5G通信が商用化されること。5G通信は現在の4G(LTE)とはスピードが桁違い。5Gを使って通信すれば、今のような遅延がなくなる。話しかければすぐ答えが返ってきたり、指示した動きをしたりしてくれる。使い勝手が格段に良くなり、普及も進むだろう」

 とはいえ課題もある。それはAIスピーカーの精度を上げる目的以外のデータの活用を、ユーザーが拒否できる「オプトアウト」ができること。提供企業側がこうした視点を持ちつつ、ユーザーの多くがオプトアウトを行使しなければ、音声によるUIの使い勝手は良くなり、普及も進むという。まさにUIの主役になる可能性は大いにあると言えそうだ。