1年後にユーザー数が最も多いソーシャルメディアはどれ? 「日経デジタルマーケティング」が創刊した2011年に読者限定サイトで最も多くのPV(ページビュー)を稼いだのは、黎明期にあったSNSサービスの将来性を識者らに占ってもらう企画だった。ちなみに識者の回答で1位になったのは「Facebook」。その読み通り、今では押しも押されもせぬ業界の巨人としてその地位は揺るぎない。

その後も本誌は、2014年の「ネイティブ広告」、2015年の「電通デジタルの発足」など変化の激しいデジタルマーケティングの「今」をいち早く伝えてきた。そして現在。2018年のPVトップは「2018年4月から『個人視聴率+タイムシフト視聴率』がスポットCMの取引指標に」というニュースである。個人視聴率へのシフトは60年を超えるテレビ放送始まって以来の「歴史的な変更」とも言われる。それをいち早く報じたことが高いPVにつながっている。
こうした報道姿勢を貫いてきた本誌は、4月から「日経クロストレンドセミナープラス」へと誌名を変更する。大きな区切りとなる今号は、創刊時のヒット記事にあやかり、高い確度の予測が可能と思われる2年後という「近未来」に、マーケティングがどう進化しているのか。5つのテーマに分けて5人の識者に読み解いてもらうことにした。題して「2020年のマーケティング」である。
AI(人工知能):
バナーや動画もAIが自動生成するように
まずは、AI(人工知能)のマーケティング活用について、データアーティストの山本覚代表取締役社長に占ってもらおう。日本を代表するAI研究者である東京大学・松尾豊准教授の下で学び、2013年にAIの研究開発と事業化をする会社を起こした注目の若手経営者である。

慶應義塾大学応用化学科卒業、東京大学大学院物理学専攻修士課程卒業、東京大学大学院技術経営戦略学専攻退学。東京大学大学院の松尾豊准教授の研究室で人工知能を専攻。高い技術力を背景にコンサルティングとサービスを提供
「昨今、AIが人間の仕事を奪うといった議論があるが、マーケティング、プロモーションの分野では、そうしたことは考えにくい。人間がやらなくてもよい仕事を肩代わりする。そうしたケースが増えていくだろう。例えば誰にどの商品を、どのように訴求すればよいかが見えているような施策は、AIに任せたほうが圧倒的に精度が高くなる。2020年にはそうした仕事はAIに任せるのが当たり前になるだろう」
一方でキャッチコピーを作るなど、人間の創造性の産物と思われているものでも、2020年までにはAI活用が進むと見る。
「商品のキャッチコピーを作って、リスティング広告に自動入札する。そうした施策もAIによる自動化が進んでいく。(『教師なし学習』などと呼ばれる)『GAN』(敵対的生成ネットワーク)というテクノロジーを活用すれば、キャッチコピーを作り、それを出稿してコンバージョン率(CVR)などを勘案しつつ、クリックされやすいものに修正する作業を自動化できる。当分は日本語として『おや』と思うようなフレーズがあるかもしれないが、伝えるべき内容が伝われば、CVRを上げることは可能。まずは言語レイヤーを先頭に、AI活用が進んでいく」
ビジュアル要素がキーとなる、例えばバナー広告はどうか。
「現在のテクノロジーでも事前にある程度、素材やレイアウトが決まっていれば、回帰処理に近い技術を使ってバナーの“自動生成”ができる。難しいのは例えばバナーの中に、青いクルマを配置しようといった場合。青いクルマといっても色々な車種があり、正面を向いているのか、ちょっと角度が付いていたほうがよいのかなども考慮する必要がある。人間なら全体のバランスを見て、『この向き、角度なら(見た目の)バランスが良い、悪い』などと判断できるが、そうした総合的な判断が現状のAIには難しい。ただし、それは(さまざまな判断に必要な)データセットの蓄積が十分でないから。要は時間の問題。2020年にはデータセットがたまり、バナーのようなテキストと静止画からなる広告であれば、かなりの部分がAIに任せられるようになるだろう」
では動画広告はどうか。
「動画とは連続した静止画のことであり、2020年には15秒などの短い尺の動画なら自動生成できて当然。できていないとおかしいという状態になっているだろう」
ただし動画と言ってもCG(コンピュータグラフィック)やアニメーションのようなものが中心。自然の風景や人間、あるいはクルマなどの商品を実際にカメラで撮影した「実写」と見紛うレベルの動画を作れるのはもう少し先のことになりそうだ。
一方、動画関連で、確実に自動化できるというのが動画の編集だ。動画素材があったとして、どのシーンとどのシーンを使うのか。その長さ、順番をどうするか。無限の組み合わせがあり難しそうに見えるが、これも「全く問題なく可能になるだろう」という。
「動画を解析して、ここに人間がいる。その人は笑っている、泣いているといった情報は、静止画を画像解析すればデータ化できる。前後のフレームと合わせて、人やモノの動き、流れを含めてメタデータとして扱う技術の開発が進んでおり、どのシーンとどのシーンをどうつなげば成果が出るか。早晩、AIが自動で判断できるようになる。動画にどのような音楽を重ねるとよいかなども、同様に解析できるようになる」という。