東日本大震災から今日で5年。風化が懸念される一方で、節目の年を迎えたこと、また「あの日」と同じ金曜日であることから、当時の記憶と思いを未来に伝えていきたい気持ちは誰しもが持っていることだろう。企業のマーケッターや広報担当者であれば、自社の復興支援に向けた取り組みは十分なのか、取り組みの内容はステークホルダーにどの程度伝わっているのか、気になるところだ。
震災翌月の2011年4月、日経BPコンサルティングが実施した好感度・魅力度が高まった企業調査では、企業トップが巨額寄付を表明したソフトバンク、ユニクロ、多数のタレントが「上を向いて歩こう」「見上げてごらん夜の星を」を歌うCMが話題になったサントリー、宅急便1個につき10円を寄付することを決めたヤマト運輸(寄付額は142億円に達した)などが上位に名を連ねた。
5年が経過した今、どこの企業が思い浮かぶだろうか。

サントリーグループは2月29日、復興支援に取り組んできた5年間の活動の歩みをまとめた8分間の動画を公開した。同社は「東北サンさんプロジェクト」を立ち上げ、総額108億円の規模で「漁業」「子ども」「文化・スポーツ」、そして2014年から「チャレンジド・スポーツ」(障害者スポーツの育成・普及)の計5分野の復興支援活動に取り組んでいる。企業サイトのCSRカテゴリーに、同プロジェクトの進捗を伝えるサイトがあり、「岩手県でサントリーの建設支援による『山田町ふれあいセンター』が竣工」(3月6日)など最新の動向を日々更新中だ。また、漁船約1万隻、奨学金受給生約2500人など、支援の内容をビジュアルにまとめたPDFも用意している。
ソフトバンクグループも3月10日、5年間の復興支援への取り組みをまとめた特設サイトを開設し、支援先の現在の状況やインタビューを、記事と動画で配信している。2011年からの取り組みを縦スクロールで振り返る年表も用意し、その軌跡をたどることができる。
震災直後のみならず、その後も長きにわたって支援を継続しているサントリー、ソフトバンクの両社は、その“見せ方”と“アピール”の面でも長けている。復興支援の取り組みをニュースリリースで配信している企業は多数あるが、取り組み実績を一覧できるページを設置している企業は意外と少ない。そうしたページをつくれば、長らく更新がないことがプレッシャーとなって取り組むきっかけ作りになるかもしれない。また、当初の支援プランを終了した場合は、その支援実績をまとめてアピールする場にできる。
本業と結び付けて継続的な支援を実現した資生堂
長期の支援を継続する秘訣は、本業と直結していて、実施することが自社のメリットにもなる取り組みを設定することだろう。
資生堂は震災以来、化粧品会社として被災者に少しでも元気になってもらうためにできることとして、マッサージやメーキャップ、ハンドマッサージなどの美容サービスを行う「ビューティー支援活動」を継続してきた。人を明るく、前向きにする力が化粧にあることを社員に気づかせたこの取り組みは、企業広告「化粧のちから」篇として、1分30秒の動画広告になった。
また、岩手県の大船渡市と陸前高田市の市の花が「椿」で、資生堂のマーク・商標である「花椿」と一致することから、椿油の食体験イベントや椿の苗木の植樹会を支援したり、大船渡市の「三面椿」をモチーフにした就寝前のフレグランスを商品化して同社Webサイト「watashi+(ワタシプラス)」で販売したりと、自社資源を活用しつつ街づくりに貢献している。
対外的にアピールできていない支援の取り組みがないか、自社と被災地に共通する縁はないか、見直してみてはどうか。復興は道半ば。これから始まる支援があってもいい。