全く異なるメークやファッションをした8人の女性が、8つに分割された画面の中で同時にメークを落としていくと、実は1人の女性だったことが判明する――。そんな印象的なネット動画「シセイドウ ビノラボ ~女の印象は、自由自在~」の再生回数が106万2000回に達している。資生堂が昨年12月24日に公開したもので、同社が苦手とする若い女性の消費者に肌や美容の情報サイト「シセイドウ ビノラボ」を訴求することを狙ったものだ。
資生堂の美容情報サイトと言えば、「watashi+(ワタシプラス)」を思い浮かべる人が多いだろう。ブランドサイト、EC(電子商取引)サイト、店舗情報など、資生堂の持つ情報を総合的に発信するメーンのサイトである。一方のビノラボは、IR情報やプレスリリースなどを掲載している企業情報サイト「資生堂グループ企業情報サイト」内に、2015年3月に開設したまだ新しいサイトだ。企業情報サイトのPV(ページビュー)は、一般的に高いとは言えない。それだけに本施策を担当したコーポレートコミュニケーション本部技術広報グループの馬場沙耶香氏は、「企業情報サイト発の動画として、100万回以上の再生回数になったのは想定外」と驚きを隠さない。
「マキアージュ」や「エリクシール」など人気のブランドを多く抱える資生堂だが、若い女性層をうまく取り込めていないことが大きな経営課題になっている。watashi+はPVなどは大きいが、その目的は既存ブランドを訴求すること。若年層など新規客の掘り起こしには向いていないと判断し、新たに設けたのがビノラボだった。
実際にビノラボのページを見ると、「美肌ってどんな肌状態のこと?」「キューティクルってどこ?」など、化粧や美容にまだ詳しくないであろう若い女性の素朴な疑問に答えるようなコンテンツが目を引く。こうした疑問に資生堂の研究員が丁寧に解説することで資生堂に対する親しみを感じてもらったり、化粧品を安心して使ってもらったりすることを目指している。
コスト削減のためViibarを活用
今回の動画施策はローコストで実現していることも特徴だ。ネット広告は出稿せず、公式YouTubeチャンネルと公式Facebookページに投稿しただけ。また制作コストを抑えるため、クラウドソーシングで動画制作を支援するViibar(ビーバー、東京都品川区)のサービスを活用している。
昨年12月上旬に、Viibarに登録している約2000人の動画クリエイターに対して、「このようなイメージの動画を制作したい」と条件を提示。応募してきたクリエイターの中から1人を選び、Viibarのスタッフの支援を得ながら、動画の制作を発注した。そうして撮影に約2日、編集に約1日、資生堂とクリエイターの打ち合わせも2~3回だけで、12月24日にはサイトに動画をアップした。
クリエイターと直接コミュニケーションを取り、制作期間が短縮化されたことで制作コストは従来の約3分の1から4分の1に収まった模様だ。それでも動画を公式Facebookページに投稿してからビノラボを含む企業情報サイトのPVは増加。「他の要素もあるとはいえ、(投稿から1週間ほどは)PVが通常の3~5倍に増えた」とコーポレートコミュニケーション本部コミュニケーショングループの永井正太郎氏は明かす。
資生堂は今後も動画を使ったコンテンツマーケティングを継続していく方針。今回はFacebookが拡散に効果的だったが、「次回以降は、より若年層の間で話題になり、拡散する手法を採り入れる」(馬場氏)という。