「メルマガが効かなくなった」に次いでここ最近よく耳にする言葉に、「電車内広告が効かなくなった」がある。通勤や移動中に乗った電車で見た車内広告を何か覚えているかと問われれば、マーケターでも答えに詰まる人は多いだろう。
思えば手持ち無沙汰で中吊り広告を眺めていた乗客の時間に食い込もうとしたのが、リクルートのフリーペーパー「R25」であり、当初こそその狙いは当たったものの、スマートフォンの普及と走行中の地下鉄にも電波が届くようになった時点で、役目を終えた感がある。乗客を観察すると、電車に乗るなり多くの人がスマホ画面に目を奪われ、目の前にあるドア横の広告ステッカーさえ視界に入っていないように見える。やはり印象の通り、電車内広告は力を失っているのだろうか。
英会話スクール「Gaba」を展開するGABA(東京都新宿区)もこの問題に直面していた。リアルの教室で行うマンツーマンの授業が特長であるGabaの主な顧客層は、都心の企業に勤務するビジネスパーソンだ。従って、教室を開設している沿線に出稿することは理にかなっており、長年、電車内広告を続けてきた。それだけに、徐々に効き目が薄れていることが気がかりだった。実際、出稿した週に跳ねるはずのサイトへのアクセスが、鈍くなっていたのだ。
強みである「診断シート」のサンプルを広告で公開
とはいえ、電車内広告の代わりの役目を担える広告は思い当たらない。「そろそろ本気で英語をやっておかないとまずい」という思いはあっても、具体的な検索・閲覧行動を取っていない潜在的な顧客に、例えばネット広告でアテンションを取るのは容易ではない。そして実際、Gabaの認知度や認知経路を調査してみると、「電車内の広告で見かける」という回答が思いのほか多いという。

そこで電車広告の効果を確認するべく、自社の強みにフォーカスした、インパクトのある電車広告を展開することにした。2016年9月に掲出した、「ガバ 診断」の検索を促す広告がそれである。同社マーケティング部門デジタルマーケティング課の篠原栄太氏は、「本当に電車広告の効き目が薄れたのか? しっかりと英語関心層に刺さる広告を出してサイト誘導を図り、どれだけの人が動いてくれるかトライしてみようと考えた」と狙いを語る。
Gabaの強みの一つに、無料体験レッスン時に渡すインストラクターからのアドバイスが書かれた「診断シート」がある。発音、正確性、語彙、理解力など6項目で受講生の英語力を診断したレーダーチャートを基に、受講生に合った上達方法と学習プランを提案するものだ。他校と比べて迷っていた受講生の多くが、受講の決め手としてこの診断シートを挙げるくらい評価が高かったが、潜在顧客にその価値を伝え切れていなかった。
昨年9月に掲出した電車広告には、診断シートのサンプルを初公開し、「ガバ 診断」の検索キーワードを大きく表示。このキーワードで検索1位表示される無料診断の説明ページに誘導した。説明ページには、無料体験レッスンの受付からカウンセリング、レッスンの様子、診断シートを基にしたアドバイスまでの流れが把握できる1分半の動画を用意。気軽に受講して手厚いアドバイスが得られることを訴求し、無料体験レッスン予約ボタンを設置した。
その結果、通常の電車広告掲載時に比べ、同社サイトへの検索流入は2倍超から3倍近くに達した。同社サイトへのアクセスは通常、3分の2がスマートフォン、3分の1がパソコン経由だが、「このときは9割がスマホ経由だった」(篠原氏)。英会話関心層の乗客に検索・来訪してもらうことに成功したと言える。きめ細かい診断シートにフォーカスした無料体験レッスン説明ページからのレッスン予約件数も、好調に推移したという。
電車内では、伊勢谷友介を起用するCOCO塾や石原さとみを起用するイーオンなど有名人を前面に押し出す競合スクールの広告がひしめく。さらに、ここ数年でオンライン英会話スクールが台頭し、トレーニングジムで地歩を築いたライザップまでリアルなスクールに進出するなど、英会話学習市場の競争は激化している。そうした中にあっても、広告クリエイティブと受け皿となるランディグページを連動させて自社の強みをしっかり訴求すれば、電車広告はまだまだ新規顧客の獲得に有効なメディアであるようだ。